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江川紹子の「事件ウオッチ」第78回

巧みな「核心隠し」から五輪の政治利用まで…安倍首相の憲法改正発言への違和と懸念

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 いったい、自衛隊の目的や活動範囲を、どのように規定しようと考えているのだろうか。その内容如何で、自衛隊のありようは、今と大きく変わり得る。

 それについて、首相は語っていない。読売新聞のインタビューでは、この点について、質問すら出ていない。あえて突っ込まないという、事前の約束でもあったのだろうか……。

解釈次第で「戦争放棄」の規定を有名無実化?

 仮に、9条の解釈を元に戻し、自衛隊の役割を、専守防衛に徹するという方向で位置づけるのであれば、第2項との整合性はさほど問題にならないだろう。むしろ、憲法の理念に添った“護憲的改憲”になりうる。その際、自衛隊の活動範囲を、きっちり決め、安保法制の時のように、無理を重ねた拡大解釈で憲法をなし崩しにするのを防ごうというなら、それはむしろ望ましい、と私は思う。

 けれども、安倍首相がそのような方向性で憲法を考えているとは、とうてい思えない。

 安倍政権は、「積極的平和主義」を名目に、自衛隊の活動領域を広げる方向で、法整備を行ってきた。安保法制を通す際には、内閣法制局長官の首をすげ替え、憲法解釈を変更させる力技まで使った。できるだけ、政権にフリーハンドを与える方向での解釈を求める安倍氏である。次は自衛隊を憲法に明記することによって、どのような解釈を可能にし、これまでできなかった何をやろうとしているのか、非常に気になる。

 自民党の石破茂元幹事長は、安倍首相の今回の発言について、「今まで積み重ねた党内議論の中では、なかった考え方だ」と指摘。これまで何の論議もされていなかった案だけに、安倍首相がどういう腹づもりなのかは、同じ自民党の閣僚経験者でも分からないらしい。

 今の日本国憲法ですら、集団的自衛権の一部容認するほどの大胆解釈が行われた。憲法で自衛隊の保持する理由として、「わが国の存立を全うし、国民を守るために」等の表現を入れれば、解釈次第で際限のない武力行使の容認が可能になって、「戦争放棄」の規定はまったく無意味なものになり果てるのではないか。そこを、安倍氏は目指しているのではないか。

 そんな懸念を裏打ちするように、安倍氏は、自民党の憲法改正草案について、読売インタビューの中で「党の目指すべき改正はあの通り」と語っている。

 同草案には、「国防軍」を保持し、「国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動」も行える、とある。そうなれば、アメリカがイギリスやオーストラリアなどと共に行ったイラク攻撃のような戦争においても、日本の軍隊が戦闘行為に参加できるようになってしまう。

 ただ、現段階ではこの草案通りの「改正」が国民投票で過半数の賛同を得ることは難しい。「憲法改正」という結果を出すためには、当面は草案に固執しない、と安倍氏は言う。ただ、条文で明記できなくても、そのように解釈することが可能な条文にしておけば、事実上目的はかなう。

 安倍氏とすれば、自分の代でそこまでは実現できなくても、草案を実現する道筋だけはつけておきたい、ということではないか。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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