NEW
芸能・エンタメ

稀勢の里、重傷でも強行出場&優勝が「美談」の危険さ…若い力士がケガで休めなくなる恐れ

文=石丸かずみ/ノンフィクションライター
【この記事のキーワード】

, , ,


 稀勢の里の優勝に水を差すつもりは、さらさらない。プロのスポーツ選手である以上、「ここは」というシーンではケガを顧みない、という決断も必要だろう。また、稀勢の里がケガをしたのは13日目で、“最強横綱”の白鵬は休場、14日目の相手である鶴竜、15日目の照ノ富士は、いずれも対戦成績で分があるという事情があった。

 そして、たとえ14日目に負けたとしてもまだ優勝の可能性は消えないということが、ケガの時点でわかっていた。骨に異常がないことがわかった段階で、この千載一遇のチャンスに賭ける……、それも、プロの決断である。ケガをしたのが10日目であれば、休場を選んだかもしれない。「ここが勝負どころ」と感じたからこそ、出場を強行して、さらに優勝を勝ち取ったのだ。これは、賞賛されるべき決断と結果である。

公傷を認めていない角界、若い力士は休めない?

 ただ、どうしても言いたいことがある。それは、ほかの若い力士に対する影響だ。現在、日本相撲協会は「公傷」を認めていない。土俵上のケガが原因で休場したとしても、通常の休場と同じ扱いであり、番付編成などにおいては一切考慮されないのである。番付ひとつで天と地の差があるといわれる角界だ。無理をしてでも、その地位を守りたいがために場所に出続けることもある。

 そんななかで、トップで模範でもある横綱が顔をしかめるほどのケガを負いながらも休場しないことで、若い力士はケガをしても「休む」と言えなくなるのではないだろうか。

 休むことも仕事である。だから、横綱には模範として「ケガをしたら、しっかり休んで万全な体で翌場所に復活する」という姿を見せてほしいし、協会には「公傷」について考えを改めてほしい。

「相撲と野球は、スポーツ科学を取り入れない傾向がいまだに強い。体調不良も『根性で乗り切れ』という声が当たり前に聞こえてくる」とは、さるスポーツライターの言葉だ。その傾向はあるように思う。根性論をすべて否定するわけではないが、しっかりとした研究に基づいた指導があってこそ機能するものであろう。

「最後は強い気持ち」というのは、ある意味では事実だと思うが、その前提には万全な状態であるべきという条件がある。根性だけで勝ち抜けるほど、スポーツは単純ではない。ケガをしたときに、その部位はどういうことになっているのか、どうすることがケガを悪化させないのか……指導者は常に新しい情報にアップデートすべきだ。

 久々に登場した日本出身の横綱・稀勢の里。そして、“最強横綱”と呼ばれる白鵬。両雄並び立つ姿を長く見たい。それが、相撲ファンの気持ちだろう。だからこそ、しっかりとケガを治して戦ってほしい。

 応援する側も「ケガをしても休まない姿に感動する」などとは言わずに、「ケガをしたらきちんと休むのが当たり前」という姿勢を見せることも大切だ。深爪程度でも痛くてパソコンのキーボードを打つのも大変なのだから、左大胸筋損傷、左上腕二頭筋損傷で取り組みなど、想像を絶する痛みに違いないのだから。
(文=石丸かずみ/ノンフィクションライター)

●「PTコンディショニングルーム

関連記事