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永濱利廣「“バイアスを排除した”経済の見方」

日本の自動車産業に危機感…米国政策変更で日本のGDP4兆円減、4万人の就業者数減も

文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト
日本の自動車産業に危機感…米国政策変更で日本のGDP4兆円減、4万人の就業者数減もの画像1「Thinkstock」より

急速に進む米国の通商政策見直し

 世界一に上り詰めた国内の自動車産業に危機感が見えている。トランプ政権誕生の煽りを受け、各自動車メーカーは米通商政策の見直しを固唾を呑んで見守っているが、輸出立国である日本経済を牽引する自動車産業に打撃が及べば、他の産業にも波及し、国内経済の屋台骨を揺るがすことになりかねない。

 事実、我が国の自動車産業は日本経済を牽引してきた。先進国の経済が比較的好調だったことに加え、新興国の持ち直しが輸送用機械の輸出を促進させ、名目GDPにおける輸送用機械産業のシェアは大きく拡大している。

 こうして、世界の景気回復が続くなかで世界的な大型製品である自動車の生産や出荷販売の増加は、個人消費のみならず、生産工場等の設備投資、海外への輸出等の増加を通じて、日本の景気回復の牽引役のひとつとなり、自動車部品をはじめとして鉄鋼、ガラス、電子部品など関連する産業を中心に好影響をもたらすことが期待されている。

もっとも裾野の広い自動車産業

 2007年度には日本国内で871万台の自動車が生産されたが、米国発の通商政策の見直しによって各社が減産に踏み切れば、国内でも膨大な需要が失われることが予想される。

日本の自動車産業に危機感…米国政策変更で日本のGDP4兆円減、4万人の就業者数減もの画像2

 特に、自動車部品をはじめとして鉄鋼、ガラス、電子部品など関連する産業が多く、裾野の広い自動車産業は、関連産業の生産も減少させ、いわゆる経済波及効果が大きくなることから、自動車各社が減産に踏み切れば、国内での自動車生産の縮小を通じて国内企業の生産を押し下げることが懸念される。

 事実、11年の産業連関表(総務省)に基づけば、乗用車に対する需要額が1単位増加すると、関連産業も含めた生産額が3.0単位増えることになり、鉄鋼の2.8単位、広告やパルプ・紙加工品、金属製品、化学基礎製品の2.3単位に比べて生産誘発効果が大きいことが確認される。

日本の自動車産業に危機感…米国政策変更で日本のGDP4兆円減、4万人の就業者数減もの画像3

 自動車産業の波及効果が大きい理由は、その生産構造を見ることで明らかになる。産業連関表で乗用車の生産構造をみると、100万円の「乗用車」を生産するために86.3万円の原材料が必要になるのだが、その内訳をみると、「自動車部品・同附属品」が53.7万円、「鉄鋼」が4.7万円、「プラスチック・ゴム」が4.2万円、「教育・研究」が4.1万円、「商業」が2.9万円等となる。

 また、自動車産業を起点とした波及効果はこれらの原材料である「非鉄金属」や「産業用電気機器」といった多種多様な部門にも及ぶ。こうした波及経路が存在することが自動車産業の裾野の広さになっており、他の産業への影響力を高める要因となっている。

日本の自動車産業に危機感…米国政策変更で日本のGDP4兆円減、4万人の就業者数減もの画像4

国内自動車10%減産で年間GDPマイナス4.3兆円

 以上を踏まえ、ここでは自動車産業の国内生産が10%減少した場合の影響について試算してみた。

 まず、15年以降の経済成長率に対する国内乗用車生産弾性値を計測すると0.08となる。つまり、国内乗用車生産が1%変化すると経済成長率が0.08%変化することになるため、国内乗用車生産が10%減少すると、経済成長率は0.8%押し下げられることになる。

 しかし、これらの減産の影響は経済成長率の低下を通じて国内の雇用も減少させることになる。こうした影響は、国内自動車生産が1%変化すると1年後の就業者数を0.006%変化させる関係があることから、結果的に国内自動車生産が10%単位で減産となると、国内の就業者数は0.06%減少につながることになる。

 これらの結果を踏まえれば、国内乗用車生産の10%減少は年間の実質GDPを4.3兆円押し下げることになる。また、このような自動車産業の国内生産10%減少の影響は雇用にも及び、1年後に4.1万人の就業者数減となる。

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求められる日本を利する米国との経済協力

 以上みてきたとおり、今後は米国の通商政策見直しが不可避と予想されるなかで、その展開次第では国内自動車生産に影響が及ぶ可能性もあり、それは日本経済の成長を大きく左右する。こうしたなか、トランプ氏は関税と同等の効果を持つ国境調整税の導入に加え、対日貿易赤字や為替政策についても言及しており、自動車関連産業への不透明感が強まっている。

 ただし、国境税の導入は関税分の値上げを通じて米国内での自動車価格が上昇することになり、米国自動車市場自体が落ち込む可能性もある。従って、日本経済への悪影響を最小限に食い止めるためにも、緩和的な金融環境下での財政政策や規制緩和等を通じた内需拡大策の加速が求められる。

 さらに、先の日米首脳会談で麻生太郎副総理とペンス副大統領をトップに据えた日米経済対話が新設された。トランプ政権下で加速が期待される米国内でのインフラ投資への協力やロボットやAI(人工知能)、サイバー、宇宙関連等での連携、米国からの安価なエネルギー調達等で日米の経済協力が進展すれば、米国の保護主義による悪影響を緩和する役割を担うことができるのではないだろうか。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。
第一生命経済研究所の公式サイトより

Twitter:@zubizac

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