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熊谷修「間違いだらけの健康づくり」

「うつ」や自殺、血清コレステロール値の低さが大きな原因…攻撃的性格も誘発

文=熊谷修/東京都健康長寿医療センター研究所協力研究員、学術博士

シニア集団における調査

 しかし、これまでの研究成果は、血清コレステロールの低い者とそうでない者の比較のため、いまひとつ因果関係がはっきりしない。そこで筆者らは65歳以上シニア約500名の縦断調査を日本で実施した(J Epidemiology. 9. 261-267 1999)。シニア期は通常、加齢に伴い抑うつ度は高まる。そこで抑うつ度点数の加齢に伴う高まり度を観察調査した。

 その結果、男性では明らかに血清総コレステロールの低い群ほど、抑うつ度の高まりは明らかに大きかった。このデータは現在から将来へと前向きに追跡して変化を測定しているので、因果関係として「血清総コレステロールの低いことが、抑うつ度を高める」と言及できる。日本のシニア集団でもはっきり認められる関係である。
 
 ちなみに、血清コレステロールと性格の間にも、特徴のある関係が確認されている。受刑者集団では血清コレステロールが低いことと攻撃的性格、あるいは「slashing(激情行動)」の間に、正の関係のあることが指摘されている。また、職能(消防士)集団では血清コレステロールの低い群は、高い群に比べ自責性が高く社交性に乏しいことを示したデータもある。

 これらをまとめると、血清総コレステロールの低いことは抑うつ傾向を促し、くよくよ自責の念に駆られ楽天的になれず、社交性に乏しく、ときには攻撃的で自虐行動に走りやすい、ということになる。これらの性格・情動との関係はシニアに限ったことではなく、青少年やミドルエイジでも確認されたものだ。

こころの健康と血清コレステロールレベル

 これまで述べた血清コレステロールレベルと精神状態、情緒、および性格との関係を示すデータは、人間社会で確認された状況証拠であり軽視してはならない。このメカニズムについては、研究が続けられているが特定には至っていない。

 メジャーな説のひとつは、たんぱく質と脂質栄養の低下である。血清コレステロールはからだの栄養指標でもある。動物性食品の高頻度摂取と血清コレステロールレベルは正の関係を示すことが多い。そして、動物性食品は質の良いたんぱく質の摂取源である。抑うつ度は質の良いたんぱく質の構成アミノ酸であるトリプトファンが原料となる、セロトニンの脳内レベルが低下すると促進される。トリプトファンは、牛乳の乳清に含まれるアルファラクトアルブミンに多く含まれている。牛乳がストレス時の認知機能の低下を緩和するとの実証データがきちんとある。

 そして、コレステロール摂取不足による慢性的な血清コレステロールの低値は、細胞膜のコレステロールを低下させ、セロトニンレセプターの機能を脆弱にする。これがセロトニンの効能を阻害し抑うつを惹起するというものだ。

 詳細の解明はこれからだが、こころの健康度の維持には十分な血清コレステロールレベルが欠かせないことを忘れてはならない。血清コレステロールを下げ心臓病のリスクさえ下げればいいというのは医療の傲慢だろう。社会背景はいろいろあるが、食糧事情が悪く栄養状態が十分でない国・地域で紛争が絶えないのは、栄養低下による情動不安定も一因だろうと筆者は推測している。
(文=熊谷修/東京都健康長寿医療センター研究所協力研究員、学術博士)

熊谷修/博士(学術)、一般社団法人全国食支援活動協力会理事

熊谷修/博士(学術)、一般社団法人全国食支援活動協力会理事

1956年宮崎県生まれ。人間総合科学大学教授。学術博士。1979年東京農業大学卒業。地域住民の生活習慣病予防対策の研究・実践活動を経て、高齢社会の健康施策の開発のため東京都老人総合研究所(現東京都健康長寿医療センター研究所)へ。わが国最初の「老化を遅らせる食生活指針」を発表し、シニアの栄養改善の科学的意義を解明。介護予防のための栄養改善プログラムの第一人者である。東京都健康長寿医療センター研究所協力研究員、介護予防市町村モデル事業支援委員会委員を歴任

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