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牧野知弘「ニッポンの不動産の難点」

スラム化する郊外とマンションの「現在」…高齢者と空き住戸だらけで修繕もできず

文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役
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 また、彼らは自分たちが育った都市郊外部に対してあまり愛着を持っていないのが特徴だ。当たり前である。小学校くらいまでは地元の学校に通っていた彼らだが、地域の公園で遊んでいたのは小学校低学年まで。高学年からは連日の塾通い。ひたすら学校と塾と家との間を往復するだけの生活は、父親のそれとあまり変わりがない。親たちの故郷像にある、小鮒を釣った川もなければ、兎を追った野原もないのだ。

 彼らが経験したのは、私立中学に合格したのち、やはり父親と同じように電車に乗って、学校と家との間をひたすら往復するだけの生活だ。地域社会に溶け込む余地など、もともと残されていないのだ。このようにまったく地域に対して「無関心」で育った子供たちは、都心居住を選択したのちは、自分たちが「育ったはず」であるニュータウンには戻ってはこない。そもそも地域に対する愛着など欠片もないからだ。

 子供たちがまだ小さかった頃には、サラリーマンの父親のなかでも少しは元気があった人たちが、盆踊りを催して壇上で太鼓をたたき、お祭りや食事会などを企画し、地域社会の絆をつくろうとしてきたが、それも今は昔。

 地域に残された人たちが高齢者ばかりになると、なんだか活気がなくなり、お祭りに集まる人たちも急速に減ってしまう。そのうちみんな億劫になって家に引き籠もるようになる。ただでさえ、新たに開発された土地で、伝統も文化もない地域だ。集まってきた人たちの「出自」もさまざまである。職業はほとんどがサラリーマンで、何か特殊な技能や能力があるわけでもない。

 もともとサラリーマンという種族は、会社以外の人生というものを味わったことのない人たちだ。会社の「役職」だけが自分を表現する手段だった彼らにとって、言うことを聞いてくれない妻や子供に加えて、いまだかつて「触れて」もこなかった地域社会の人たちと交わり、今さら新たな自分を再構築していくことはなかなかにして困難な作業といわざるを得ない。

 子供たちが「後を継ぐ」わけでもなく地域社会から次々と櫛の歯が抜けるように去って行ってしまった地域では、地域の絆を保つ術がどこにもないというのが実態なのだ。

老朽したマンションの実像

 空き家といえば戸建て住宅ばかりを思い浮かべがちだが、マンションになると事態はさらに深刻だ。マンションの多くは区分所有という権利形態だが、この形態が曲者だ。分譲時点では多くの所有者は同じような経済状態、家族構成だったものが、時代の経過とともに変化する。子供たちは家を出て、やはり親の元に戻ってはこない。

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

オラガ総研代表取締役。金融・経営コンサルティング、不動産運用から証券化まで、幅広いキャリアを持つ。 また、三井ガーデンホテルにおいてホテルの企画・運営にも関わり、経営改善、リノベーション事業、コスト削減等を実践。ホテル事業を不動産運用の一環と位置付け、「不動産の中で最も運用の難しい事業のひとつ」であるホテル事業を、その根本から見直し、複眼的視点でクライアントの悩みに応える。
オラガ総研株式会社

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