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片山修「ずだぶくろ経営論」

ブラシ洗浄不要の「汚れない便器」、40年の壮絶な開発の「糞尿譚」…尿の飛散防止も

文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

 後発の松下が同じ陶器で勝負していては、ライバルの陶器メーカーに勝てない。陶器製の便器で勝負に臨むことは、「レッド・オーシャン」すなわち競争の激しい領域に飛び込むことを意味する。そうではなく、陶器では到達できない未開拓領域、「ブルー・オーシャン」を切り開くべきだという指南である。  

 しかし、「トイレといえば陶器」という常識を否定し、新境地に到達することはできるのだろうか。陶器以外の材料で便器をつくることは、果たして可能性なのだろうか。

「樹脂を使えば、他社ができない便器をつくれるんじゃないか。これは、松下の便器が新たな土俵に乗るチャンスだよ」

 所長はこともなげにいった。そうはいっても、樹脂製便器が完成するまでには、10年有余の長い年月を要した。
 

欠点を克服する新素材の開発

 陶器製便器には、弱点があった。

「陶器は、土を固めたうえに釉薬を塗って釜で焼きますが、釉薬のなかにケイ素という成分が含まれていて、乾燥すると水アカの成分と化学結合して、便器の表面に水アカが固着してしまうんですね。ブラシでこすると、きれいになったように見えるんですが、じつは、表面がボコボコになったままのため、すぐまた汚れがついてしまうんです」(酒井氏)

 つまり、水アカがつきやすく、黒ずみや汚れもつきやすいのだ。こうした陶器製の難点を克服する手段として、樹脂を活用できれば、ビジネスチャンスが生まれる。

 技術者たちは、便器の新素材としてアクリル樹脂に目をつけた。樹脂はケイ素を含まないため、化学結合が起こらず、表面の平滑性が保たれる。また、アクリル樹脂の撥水性により、汚れがつきにくいという特徴もある。
 
 樹脂製便器の第一号の製品化に成功したのは、1980年だ。ただ、材料に使用した汎用樹脂ABSは変色しやすく、熱に弱く、傷も避けられず、結局失敗に終わった。

 本格的な樹脂製便器の開発は、その後、04年まで待たなければならなかった。「樹脂トイレプロジェクト」のスタートがそれである。汎用樹脂を使って失敗した第一号の反省のもとに、今度は材料にまでさかのぼって研究が進められた。カギは分子にあった。
 
 主成分のアクリル樹脂は、分子と分子の結合からつくられる。だから、特定の分子を追加することにより、アクリル樹脂はその性質を強化することが可能だ。技術者たちは、素材のブレンド研究に取り組んだ。樹脂に特性をもたせるため、材料の配合を徹底的に研究した。

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

愛知県名古屋市生まれ。2001年~2011年までの10年間、学習院女子大学客員教授を務める。企業経営論の日本の第一人者。主要月刊誌『中央公論』『文藝春秋』『Voice』『潮』などのほか、『週刊エコノミスト』『SAPIO』『THE21』など多数の雑誌に論文を執筆。経済、経営、政治など幅広いテーマを手掛ける。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)は8万部のベストセラー。著書は60冊を超える。中国語、韓国語への翻訳書多数。

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