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においや外観で他人の病気がわかる?人間が持つ驚愕の嗅覚能力が判明!

文=ヘルスプレス編集部
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睡眠中も嗅覚だけは起きている

 このような鋭敏なヒトの嗅覚系は、嗅球、僧帽細胞、鼻腔の天蓋にある篩骨(しこつ)の篩板(しばん)、鼻粘膜上皮、嗅糸球、嗅覚受容細胞から成っている。嗅覚が働く仕組みはこうだ。

 空気中の化学物質を感知するのは、鼻腔の天蓋、鼻中隔と上鼻甲介の間にある粘膜(嗅上皮)の嗅細胞だ。嗅細胞膜上の嗅覚受容体(347〜910種類)のGタンパク共役受容体 (GPCR) が、においの分子を感知する。

 つまり、嗅細胞に嗅覚受容体を活性化するにおいの分子が結合すると、嗅細胞のイオンチャネルが開くため、電気信号が嗅神経を経て、嗅球から前梨状皮質、扁桃体、視床下部、大脳皮質嗅覚野(眼窩前頭皮質)に伝わり、においを認識する。

 嗅覚以外の視覚、聴覚、味覚、触覚は同じ経路を通り、視床から大脳皮質に伝わる。睡眠中、視床はほぼ閉じているため、視覚、聴覚、味覚、触覚の情報は大脳皮質に伝わらない。 

 一方、嗅覚だけは、視床を経由せず、そのまま大脳皮質嗅覚野(眼窩前頭皮質)に伝わるので、睡院中も嗅覚は働いている(『単純な脳 複雑な私』池谷裕二)。

 ほ乳類の脳の神経細胞は再生しないとされるが、記憶を司る海馬にある神経細胞と、においの情報を最初に処理する嗅球にある神経細胞だけは例外的に再生する。嗅細胞の寿命は約20〜30日だ。

 また、嗅覚は視覚や聴覚に比べると、イメージや色などの記憶と調和する香りを呼び起こす作用が強い(Zellner, Debra A. (2005) Color Enhances Orthonasal Olfactory Intensity and Reduces Retronasal Olfactory Intensity)。

においの好き嫌いを決める脳内メカニズムを解明

 このように、さまざまな特徴を示す嗅覚の新たな知見がある。

 脳科学総合研究センター知覚神経回路機構研究チームの風間北斗チームリーダーらの研究チームは、ショウジョウバエ嗅覚回路の神経活動を記録・解読して、においの好き嫌いを決める脳内メカニズムを解明し、米国の科学雑誌『Neuron』(7月6日号)に発表した(2016年6月17日Laurent Badel, Kazumi Ohta, Yoshiko Tsuchimoto and Hokto Kazama, “Decoding of context-dependent olfactory behavior in Drosophila”, Neuron, doi: 10.1016/j.neuron.2016.05.022)。

 研究チームは、ほ乳類よりもはるかに少数の神経細胞で、ほ乳類と類似した機能を発揮するショウジョウバエ成虫の嗅覚回路に着目した。

 ヒトの嗅覚神経細胞の軸索は、同じ嗅覚受容体を持つもの同士が集まって糸球体を形成している。糸球体は約50個存在するが、糸球体は、ショウジョウバエでも同じパターンで配置されている。

 においの好き嫌いを評価するために、ハエの行動に応じてにおいや景色が変化する仮想空間を構築し、嗅覚情報を処理する触角葉という脳の領域の応答を調べ、においの嗜好を解読する糸球体の数理モデルを作成した。

 その結果、糸球体は誘引(留まる行動)または忌避(逃げる行動)を促し、その活動の総和によってハエの行動が説明できる事実がわかった。

 つまり、においの嗜好は特定少数の糸球体の活動によって決定されるという従来の仮説を覆し、糸球体による数理モデルが、新しく与えられたにおいに対する嗜好行動を決定する事実を示したことになる。

 したがって、嗅覚回路の機能や基本的な配線図はヒトにも共通であることから、今回の研究は、においの好き嫌いを決める普遍的な脳内メカニズムの解明につながった。

 今後は、脳と機械をつなぐハードやソフトによって神経活動を探求するブレイン・マシン・インターフェース技術への応用も期待できる。

 たとえば、糸球体による数理モデルを拡張すれば、体の不自由な人の動きを機器でサポートできる。さらに、神経活動から適切な情報を抽出できれば、うつ病などの精神疾患に特徴的な脳活動を検出し、より定量的なデータに基づいた確定的な診断・治療が実現するだろう。

 脳の神経細胞と嗅覚や視覚が恊働する、まさに神秘のメカニズム。

 それは、ホモ・サピエンスが数十万年の時空を踏み超えて、複雑な生態系と共進化して来た壮大なクロニクル(叙事詩)の実証なのだ。
(文=ヘルスプレス編集部)

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