
1978年から始まり、毎年恒例となっている『24時間テレビ 愛は地球を救う』(日本テレビ系)は、今年も8月26、27日に放送される。
その『24時間テレビ』のもっとも大きな注目を浴びるコンテンツのひとつが、「マラソン」だ。だが、今年はいまだにランナーが誰なのか発表されていない。例年、5月下旬から6月上旬には発表されるため、7月に入っても発表されないことで懸念する声が多く上がっている。
インターネット上では、「ランナーが誰になるか」といった予想投票が行われたり、多くの候補者の名前が挙がっている。複数のメディアでも、ランナーが内定したといった報道がなされたが、いずれも誤りであったことが判明し、混沌とした様相を呈している。
だが、ランナーが誰になるにせよ、仮にまだ決まっていないとすると、気になるのは練習時間の問題だ。あと50日ほどしかない状況で、24時間走り切る体力と脚力を身につけるのは容易ではない。
発表されていないだけで、すでにランナーが決まっていて練習も積んでいるのであれば問題ないが、まだ決まっていなかった場合、準備は間に合うのだろうか。
『骨格ランニング』(講談社)、『ランニングの科学』(池田書店)などランニングに関する著書を多く持つアスレチックトレーナーの鈴木清和氏に話を聞いた。
基礎体力のない人が走れば命の危険も
–『24時間テレビ』のランナーがいまだに発表されていませんが、今から準備を始めたとした場合、本番までに間に合うのでしょうか。
鈴木清和氏(以下、鈴木) 自分にはご縁がないと思うのですが、「もしもコーチング依頼をいただいたら」という前提でお話しいたします。
まず、24時間マラソンを完走するためにもっとも重要なのは、「基礎体力」です。今から1カ月半で、24時間「動き続ける体力」を身につけることは、現実的に不可能です。普段から運動していない方がいきなり出ても、疲労困憊で歩くどころか“バタン・キュー”で眠りに落ちてしまいます。がんばりすぎてしまうと、低血糖、低体温で動けなくなってしまいますので、生命維持の観点でも大変危険です。したがって、24時間完走を目指す場合、まず「基礎体力」を持っている人を選出する必要があります。
ただ、芸能界には、もともと体力があったり、元スポーツ選手という方も多いので、そのなかから探せばよいかと思います。その上で技術練習を行えば、不可能ではなくなってきます。
–基礎体力がある人でなければ、今からでは間に合わないということですね。では、元スポーツ選手などの体力がある人が出るとして、どのくらいの速さで、どのくらいの距離を走ることができるでしょうか。
鈴木 24時間走り切るためには「基礎速度」を保つことが重要です。また常時、移動速度もチェックしておけると安心です。一般的な速歩(早歩き)の速度は「1kmあたり10分」です。これを24時間で計算すると、「1時間6km×24時間=144km」となりますので、近年続いている100km前後の距離も難しくなさそうに思えますが、1kmを10分というのはかなり速く、身体への負担も高いため、休憩も多く長く必要になります。
したがって、現実的には「1時間5km×20時間=100km」くらいとなるでしょう。速度を落とした分、時間で稼ぐために、上述のように「基礎体力」が必要になるイメージです。
–短い期間で準備するために、どのような練習が必要になるでしょうか。
鈴木 短期間で体を仕上げるには「練習メニュー」が大切です。特に「量」と「質」がポイントになります。「量」としては、毎日20km走る(歩く)くらいの練習が必要です。20kmと聞くと大層な距離に感じますが、健康のために1日1万歩を歩くことが推奨されていることを考えると、おおまかに1歩1mくらいで、その倍がんばればいいだけです。日頃の移動でも意識して歩く距離を伸ばせば、1日で20kmは難しくない数字です。
また、「質」としては、一歩ずつ丁寧に、ダメージ(インジャリー)を受けないようにして、身体を慣らしていきます。この作業を急ピッチで行って、ようやく辿り着けるのが100kmという距離です。
–こうして見てみると、基礎体力があり、急ピッチで体づくりができる人を選ぶ必要があるといえますね。
鈴木 「選出指標」としては、フルマラソンを5時間で走れる人といえるでしょう。テレビ的には、感動や面白みに欠けるかもしれませんが、現時点で「フルマラソンを5時間程度」で走れている方であれば完走確率が高くなります。フルマラソンを5時間で完走するには、1kmを平均7分で走ります。現実的には、1kmを6分で走る走力のある人が、休憩を取ったりペースダウンした結果として得られるタイムが5時間です。『24時間テレビ』のランナーには、この体力レベルの方を選び、完走させるように持っていくのが現実的な見方かと思います。
–ありがとうございました。
『24時間テレビ』のマラソンランナーが誰になるのか、そしてどのような練習が積まれるのか、注視したい。
(構成=編集部、協力=鈴木清和/アスレチックトレーナー)