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孫崎享「世界と日本の正体」

北朝鮮のICBM発射、米国は脅威とみなさず、逆に利益…軍事力増強や対中国圧力に利用

文=孫崎享/評論家、元外務省国際情報局長
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「ボトムアップレヴュー」

 こうしたなかで出てきたのが、クリントン政権下、アスピン国防長官の主導でつくられた「ボトムアップレヴュー」である。この考えが今日まで継続されている。主要な内容を以下に整理してみよう。

・重点を東西関係(対ソ戦略)から南北関係に移行する
・イラン、イラク、北朝鮮等の不安定な国が大量破壊兵器を所有することは、国際政治上の脅威になる。したがってこれらの諸国が大量破壊兵器を所有するのを防ぎ、 さらにこれらの国々が民主化するため、必要に応じて軍事的に介入する
・軍事の優先的使用を志向する
・同盟体制を変容させる(具体的には、同盟国、特にドイツ、日本を軍事行動に積極的に関与させる)

 つまり、「イラン、イラク、北朝鮮の脅威がある」ということで、米国の強固な軍事を維持する方針を打ち出すことを決めた。それを別の表現でいえば、「強固な軍事を維持するためには、3国の脅威を助長させたほうが望ましい」ということになる。これらの国の軍事力がいかに強力になったとしても、ロシアや中国の脅威以上になることは絶対にありえない。

 もし米国が「3国の脅威が真に米国の脅威になる」と判断すれば、実は別の戦略選択がなされる。それを述べたのは、若い時代のキッシンジャー(のちに国務長官)である。キッシンジャーの『核兵器と外交政策』(日本外政学会/1958年)は、基本的に米国の核戦略といっていい。キッシンジャーは、核兵器と外交の関係につき次のように述べている。

・ 核保有国間の戦争は中小国家であっても、核兵器の使用につながる
・ 核兵器を有する国はそれを用いずして全面降伏を受け入れることはないであろう。一方でその生存が直接脅かされていると信ずるとき以外は、戦争の危険を冒す国もないとみられる
・(したがってこれらの国に核兵器を使わせないようにするには)これらの国の無条件降伏を求めないことを明らかにし、どんな紛争も国家の生存の問題を含まない枠をつくることが米国外交の仕事である

孫崎享/評論家、元外務省国際情報局長

孫崎享/評論家、元外務省国際情報局長

東京大学法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。1966年外務省入省。イギリス陸軍語学学校、ロンドン大学、モスクワ大学にてロシア語を習得し、在ソビエト連邦大使館を経て、1985年在アメリカ大使館参事官(ハーバード大学国際問題研究所研究員)、1986年在イラク大使館公使、1989年在カナダ大使館公使を歴任。1991年から1993年まで総合研究開発機構へ出向。駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、駐イラン大使を歴任。国際情報局長時代は各国情報機関と積極的に交流。2002年より防衛大学校教授。この間公共政策学科長、人文社会学群長を歴任。2009年3月退官。

Twitter:@magosaki_ukeru

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