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大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

某スーパーの「万引き防止」の貼り紙、秀逸かつ高等な表現テクニックに感心

文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授
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某スーパーの「万引き防止」の貼り紙、秀逸かつ高等な表現テクニックに感心の画像1「Thinkstock」より

「リモコンの電池を抜かないでください」

 名古屋の喫茶店のトイレで、こんな張り紙を見つけた。初めは、なんのことやらわからなかったが、最新式の便器にありがちな「流す:大・小」「ウォシュレット:強・弱」などの機能が搭載された壁についているパネルのことだとわかった。

「おいおい、ここから電池を抜くか? さすが、“行きたくない街”ナンバーワン、ひどいとこだ!」と残念に感じてしまった。2016年6月に名古屋市観光文化交流局が行った「都市ブランド・イメージ調査」で、名古屋は国内主要8都市の中で「行きたくない街」の1位となっている。

 こうした貼り紙は、いろいろなところで目にするものの、あらためて考えると、完全に悪いことに対して、「お願いします」的スタイルのメッセージはまずいのではないか? と大きな違和感が生まれてしまった。

某スーパーの「万引き防止」の貼り紙、秀逸かつ高等な表現テクニックに感心の画像2『すごい差別化戦略』(大崎孝徳/日本実業出版社)

 しかし、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)全盛の現代は、なかなか難しい時代である。仮に「抜くな!」と記載すれば、なんら悪意のない客まで不快感を抱くだろうし、「抜いてはいけません!」は特に問題ないように思われるが、“上から目線”といった批判を浴びかねない。心無い者が写真に撮り、「この店、うぜえ!」と投稿し、SNSで拡散していくことが目に浮かぶ。

 まったくの他人事ながら、「どう掲示をすべきか」というのは難しい問題だと、その日は一日中、頭を悩ませていた。

 だが、予想外にも自分の中での決着は容易についた。

 翌日、あるスーパーに行った際、「万引きは許さん!」との文字が赤鬼の絵とともに書かれた貼り紙を見て、「これだ!」と思ったのである。

 まず、「電池を抜く」という曖昧な表現を改め、「電池の盗難」というふうに犯罪であることを明確に示す。犯罪は誰しも違和感なく「ダメだ」と認めるところゆえ、多くの人から同意を得られるであろう。

 次に、「お願いします」的な文章のスタイルの是正に関しては、やはり「許さん」的な強い表現が必要であるとあらためて感じた。しかも、相手への指示や強要ではなく、自らは認めないというスタンスを示すことは敵対心をずいぶん緩和させるだろう。しかしながら、こうした表現であっても、少なからず店に対して不快感を抱く客は依然として出てくると予想されるため、赤鬼の絵を掲載することは重要なポイントになる。

 つまり、発言の主体は店ではなく赤鬼であると装うのだ。非常に幼稚な責任転嫁だとの批判もあるだろうが、たとえば店長やオーナーの写真が貼ってある場合と比較すれば、不快感が随分和らぐと多くの人が感じるのではないだろうか?

 店長などの写真を貼った場合、翌日には誰かわからないくらい悪意の落書きで埋め尽くされることは容易に想像がつく。

 ちなみに、赤鬼の目には銀紙が貼られており、そこに自分がぼんやりと映るため、「大の大人が」と馬鹿にされそうだが、「見張られている」と感じてしまった。こんな貼り紙をつくったスタッフは、何事にも前向きで素晴らしく仕事のよくできる人なのだろうと感心した次第だ。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

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