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小林敬幸「ビジネスのホント」

美術館と金儲けを飛び出した現代アート、「誰でも楽しめる」化で地方芸術祭が活況

文=小林敬幸/『ビジネスの先が読めない時代に 自分の頭で判断する技術』著者
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 従来のファインアートは、現代アートも含め、美術界のコンテキスト(文脈)を重視してきた。芸術家の村上隆が『芸術起業論』(幻冬舎)で述べているように、作家がファインアートで成功するには、美術史を知悉し自らの作品を美術界のコンテキストの中でどう位置付けるかで勝負が決まる。つまり、美術業界内の人同士が、業界の経緯を踏まえて評価し、評価されてきた。モダンアートの破壊者であり現代アートの創始者ともいえるマルセル・デュシャンですらも同じ範疇にはいる。美術史のコンテキストの中でみればこそ、便器を泉と称して美術展で展示することに貴重な価値が見いだし得た。

 これに対して、最近の地方の芸術祭では、アートの歴史を知らなくても、純粋に「おもしろい」「不思議だ」「感動する」と言える作品がたくさんある。背景の自然をうまく使ったり、その土地に伝わる伝説や歴史に関係づけたり、地元の素朴な人の積極的な参加などが前面に出て強調されている。その作品が、アートの歴史のなかでどう位置づけられるかは、後方に控えてしまう。強いていえばそういう普通の人にも感動を与えるということにこそ、閉鎖したヒエラルヒーになってしまった現代アート業界へのアンチテーゼ(反対・対照の命題)としての主張が隠されている。

 ところで、小説家・村上春樹もデビュー当初から「純文学といえるのか」という批判を常に受けてきた。しかし、村上の偉大さは、純文学業界での評価を無視し、「文壇」に反発するかのように、純文学を読まない人にも読みやすい平易な言葉で、巧みな比喩とストーリーでひきつけながら、純粋な芸術的感動を与えられることにある。そういう意味で、現代の芸術祭はますます“村上春樹化”しているのではないだろうか。素晴らしいことだ。

金儲けとの相性は、よくない

 越後妻有、瀬戸内の芸術祭を成功させた北川氏は、今年は北アルプス、奥能登の2つの芸術祭のディレクションを行い、今や超売れっ子だ。「芸術祭成金」との心ない批判もあるようだが、これはビジネスを知らない子供じみた批判だろう。10年以上、実ビジネスの経験のある人がこれらの芸術祭を半日もみれば、とても金儲けのためにやる仕事ではないとわかる。関係者の誰かが長期間お金儲けできるようなオペレーションではなく、すべての関係者が現代アートや地方の活性化への思いを持っていなければ、とてもやりきれない。

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

1962年生まれ。1986年東京大学法学部卒業後、2016年までの30年間、三井物産株式会社に勤務。「お台場の観覧車」、ライフネット生命保険の起業、リクルート社との資本業務提携などを担当。著書に『ビジネスをつくる仕事』(講談社現代新書)、『自分の頭で判断する技術』(角川書店)など。現在、日系大手メーカーに勤務しIoT領域における新規事業を担当。

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