障害者雇用の現場で起こるトラブル
同書の前書きは、「うちの会社の障害者はまさにモンスターですよ!」「障害者のせいで、どれほどひどい目にあったと思ってるんですか!」という、障害者を雇用した一流企業の担当者の衝撃的な本音を紹介することから始まる。
そして、障害者雇用の現場における、さまざまなトラブル事例が紹介されていく――。たとえば、職場でいつも優しく微笑んでいた障害者が、ある日突然「いつも笑ってバカにしていた!」と激高。そんな覚えのない健常者の社員は、困惑するしかない。
実際、本書を読み進めると、障害者雇用の現場はこれほど困難なものかと、いささか暗たんとした気分にすらなる。だが、そのトラブルの多くは、誤解やちょっとしたすれ違いから起こっていたりするのだ。
こんなケースもある。物事を自分で決められない依存傾向のある障害者に「お昼は何を食べればいいでしょうか?」と尋ねられ、「なんでもいいんじゃない」と返しただけで、「嫌がらせをされた」と訴えられた。
ここでポイントとなるのは、その障害者が本当に知りたかったのは「自分に関心を持たれているかどうか」なのだ。尋ねられたときに、「私は○○を食べますよ」と応じていれば、回避できたかもしれない。
また、発達障害のある社員の場合、上司は同じ部署の同僚たちに「彼には障害がある」とだけ伝え、「同時に複数の指示を出されるのは苦手」という障害の特性を伝えていなかったためにトラブルが発生した。しかし、職場での理解を徹底することで、その社員が「職場に溶け込めて楽しい」と言うまでになったという。
一見障害がないように見える場合でも、どこかでハンデを抱えているからこそ、障害者雇用で働いているのだ。腫れ物のように扱うのでも、変に特別扱いするのでもない。
何に困っているのかを胸襟を開いて話し合えば、かなりのことは理解し合えると信じたい。一方で、障害者の側も、差別されていると思い込む前に、冷静に自分の立場や状況を周りに伝える姿勢が求められているといえそうだ。
障害者雇用率の引き上げまで、あとわずか1年足らず。多様な人たちが共に暮らすダイバーシティーの社会の実現は、どこにでもいる普通の社員たち一人ひとりにかかっている。
(文=ヘルスプレス編集部)