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増田美加「医療と賢くつき合うための患者力」

乳がんのマンモ検診、半分以上の女性が「がん」が見つからない高濃度乳房の可能性

文=増田美加/医療ジャーナリスト
乳がんのマンモ検診、半分以上の女性が「がん」が見つからない高濃度乳房の可能性の画像1「Thinkstock」より

 小林麻央さんの悲しい報せから、乳がんについての関心が高まっています。乳がんには、確実な予防法がありません。そのため、乳がんで命と乳房を失わないためには、乳がん検診で早期発見することが大切です。特に乳がんは、早期がんと進行がんではまったく違う病気といわれるほど、治療の大変さも、心と体の負担も、経済的負担も異なります。

 乳がんを早期発見するためには、定期的な乳がん検診が必須です。日本でも世界でもエビデンスのある(有効性が確認されている)乳がん検診は、マンモグラフィ検診だけです。

 しかし今、マンモグラフィでは、がんを発見しづらい高濃度乳房(デンスブレスト)が日本人女性の5~7割に及ぶといわれています。この数値は正確にはわかっておらず、医療機関によっては8割、9割が高濃度乳房というところもあります。

 この高濃度乳房の話題は、7月に開かれた日本乳癌学会でも新たな調査結果が発表されました。

高濃度乳房だとマンモグラフィではがんを見つけられない

 今、多くの自治体で行われている乳がん検診では、検診でがんを見つけにくい高濃度乳房と判明しても、その事実は受診者に通知されていません。それどころか、「異常なし」という結果が返ってくるのが現状です。

 高濃度乳房とは、乳腺組織の密度(濃度)が高いタイプの胸のこと。マンモグラフィでは乳房全体が白く写り、乳がんも白く写るので、がんがあっても見えにくい特性があります。「雪原の中で白うさぎを探すかのよう」といわれています。

 高濃度乳房なら、マンモグラフィではがんの有無がわからないのだから、「異常なし」ではなく、「判別困難」と知らせてほしい。私たちは、全国の乳がんサバイバー(経験者)の有志と2016年10月、厚生労働大臣に「高濃度乳房の告知を求めた要望書」を提出して、「高濃度乳房の場合は、受診者に通知してほしい」と要望しています。

 この声を受けて、厚生労働省は17年3月に全国の自治体へ向けて初めて調査を行いました。その調査では、「高濃度乳房を通知している」「通知する予定がある」と答えた自治体が約2割でした。

独自に“高濃度乳房”の通知を始めた自治体も

 乳がん検診のマンモグラフィでは異常が見つけにくい高濃度乳房の問題で、厚労省が行った初の調査は、こうです。

 約1700市区町村のうち、乳房のタイプ(高濃度乳房かどうか)を「通知している」のは、230の自治体でした。「通知する予定がある」と答えた115の自治体と合わせると、約2割が高濃度乳房の対策に動いていたことがわかりました。

 現在、通知の仕方や方法は、自治体独自で行われているため、統一がとれていません。今のままでは、自治体によって通知の仕方にバラツキがあって、「高濃度乳房だとどうしたらいいのか?」が検診受診者に正確に伝わらず、誤解を与えることも考えられます。

 高濃度乳房の人に、「マンモグラフィの弱点を補う超音波検査がある」と補足して伝えるなどの対処法を示す自治体は、半数しかありませんでした。検診を受診した高濃度乳房の人に、どう情報提供をしたらいいか、課題が浮き彫りとなっています。

 そのため、厚労省は「2割の自治体が動いているということは決して少ない数字ではない。見過ごすことはできない」と述べ、適切な通知法の検討を始める方針を打ち出しました。専門家も「国としてなんらかの提言をまとめる必要がある」と強調しています。

 一方で、川崎市で行った調査で、高濃度乳房を含む自分の乳房のタイプについて、乳がん検診を受診した人の86%が「知りたい」と言っています。

今の乳がん検診では結果が異常なしでも、本当かどうかわからない

 私も経験しましたが、がん告知はつらいです。でも、もし乳がん検診を定期的に受けていたのに、高濃度乳房であることを知らされずに、「異常なし」と検診結果を毎回受け取っていたら。そしてあるとき、進行した乳がんで見つかったら。このような制度の不備で、乳がんの発見が遅れたとなれば、患者は後悔と医療不信が増します。信頼して治療を受けることができなくなります。

 私の周りにも、マンモグラフィ検診を受け、「異常なし」だったのに、あるとき進行がんで見つかった女性が何人もいます。日本乳癌学会も「マンモグラフィで乳腺濃度が高い(高濃度乳房の)人は、低い(脂肪性乳房の)人と比較して、乳がん発症リスクが高いことは確実」としています。

 どんな検診も100%ではありません。現状では、乳がん検診を受けた受診者は、検診結果が「異常なし」でも、“自分で”高濃度乳房かどうかを問い合わせ、もしそうなら超音波などの検査を“自分で”組み合わせる方法が考えられます。

 先日の日本乳癌学会でも、「高濃度乳房の女性だけをマンモグラフィのみのグループとマンモグラフィ+超音波併用のグループで比較したところ、がん発見率はマンモのみが0.37%だったのに対し、超音波併用では0.71%と約2倍」だったという発表がありました。

 また、「がんの人をがんと正しく判断できた割合(感度)も、マンモのみでは59%だったのに比べ、超音波を加えると96%に」上がったと発表。高濃度乳房では、マンモグラフィの弱点を、超音波検査を加えることで補えることが明らかになっています。

乳がん検診を受けても早期発見できず、進行がんで見つかる人が

 一方、米国では高濃度乳房の女性は約4割ですが、マンモ検診受診者に高濃度乳房であることを告知している州は41州。うち約30州で告知義務を怠ると罰則を受ける法整備が整ってきています(17年現在)。

 これは、マンモグラフィ検診を受けていたのに、高濃度乳房のために乳がんの発見が遅れて、進行がんに進んでしまった患者さんたちの活動が政策に反映された結果です。

 私は、乳がんの取材や啓発活動を行うなかで、日本でも定期的に乳がん検診を受けていたにもかかわらず、早期発見ができず、進行がんで見つかったと悲しむ女性たちとあちこちで出会うようになりました。

 今の検診が絶対ではないことを、検診を受ける女性たちに伝えなければなりません。国や専門家に女性たちの声を反映してもらわなければ、と活動しています。

増田美加/医療ジャーナリスト

増田美加/医療ジャーナリスト

30年以上にわたって2000名以上の医師を取材。予防医療の視点からヘルスケア、エイジングケアの執筆、講演を行う。乳がんサバイバーでもあり、さまざまながん啓発活動を展開。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)ほか多数。
増田美加公式ホームページ

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