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江川紹子の「事件ウオッチ」第84回

推定無罪の原則は何処に? 取り調べで中学生を脅す警察官とそれに理解を示す市民は過去の冤罪事件に学べ

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 それは、今回処分を受けた高井戸署警察官2人だけではなく、過去の教訓を共有化し、それを生かそうとしない、警察組織の問題であり、幹部の姿勢の問題でもあるだろう。

 このような威圧的な取り調べが、虚偽の自白を生み、冤罪を招く。それを避けようと、殺人など裁判員裁判対象の重大事件では、取り調べの全過程の録音録画を義務付ける法改正がなされ、2019年6月までに施行されることになっている。

 警察は、裁判員裁判対象事件について、2009年度に録音録画の試行を開始。同年度に実施されたのは対象事件の8.9%のみで、しかも1件当たり平均1回、わずか14分間の録音録画に留まっていたのが、その後急速に増えた。昨年10月からは、法施行を前提にした新たな試行段階に入り、今年3月までの6カ月間に、対象の93.8%の事件で、1件につき平均13.2回(25時間9分)の取り調べで録音録画が行われた。

 個々の事件で冤罪を防止するだけでなく、このように取り調べの可視化が当たり前になることで、無理な取り調べで自白をもぎ取る“文化”が変わっていくことが期待されている。しかしこうした「可視化効果」は、今回の高井戸署のケースを見ると、万引きなど殺人などに比べて軽微な、日常的な犯罪の捜査には、全く及んでいないようだ。

 今回は、不幸中の幸いで、少年たちに誤った保護処分などはなされていないが、こうした取り調べが横行したままでは、今後も冤罪が生まれるリスクは減らない。

 早急に次の事柄がなされるべきだろう。

1)今回の事件を含め、今までの問題事例を踏まえた研修を行うこと

2)すべての取り調べの録音の義務付けを行うこと。特に防御力が弱く、威圧的な取り調べに屈しやすい少年の取り調べの場合は、それを急ぐ必要がある

3)すべての取り調べの録音が実現するまで、被疑者や参考人が自分の取り調べを録音することを妨げてはならないと決めること

 すべての事件で録画まで義務付けると、機材の準備などに時間と多額の費用がかかるが、録音だけであれば、ICレコーダーを全警察官に配ればよい。都道府県の警察官は合わせて26万人弱。県ごとにまとめ買いすれば、価格も相当に安くなるだろう。仮に1台2,000円としても、52億円。これで冤罪のリスクが大幅に減るのなら、安いものではないか。

 裁判で、取り調べの問題を訴えても、多くの場合、捜査機関はそれを認めない。捜査機関が否認すると、裁判所は録音などの証拠がない限り、なかなか訴えを認めない。大阪府警西堺署のケースは、男性は刑事裁判で無罪になったものの、その後起こした民事裁判で、裁判所が違法と認めたのは録音されていた日の取り調べだけ。録音を録っていなかった日については、無理な取り調べを認めなかった。

 そうであれば、取り調べを受ける側が自ら録音する“自己可視化”で、無理な取り調べによる冤罪から身を守るしかないではないか。

警察に疑われただけで犯人視する風潮

 しかし、捜査機関は庁舎管理権をタテに、取り調べを受ける者の録音を認めない。事前に、録音機の所持を確かめたり、所持品を預けさせるなど、取り調べの録音をさせまいとする。

 警察や検察庁の庁舎内を外部の者がむやみにビデオ撮影するような行為は、そこを訪れるさまざまな人や書類が映り込んでしまう可能性があるので、庁舎管理権で禁じることは理解できる。しかし、取調室の中でのやりとりを録音する行為を、庁舎管理権で縛るのはおかしいのではないか。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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