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成馬零一「ドラマ探訪記」

孤独な中年男性の悲哀を見事に描いた『わにとかげぎす』、丁寧すぎて残念な失敗

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 富岡の同僚の雨川勇(吉村界人)は、一目惚れした吉岡華(コムアイ)に頼まれて、吉岡が同棲するヤクザの部屋から(彼女の裸体や性行為が撮影された)DVDや写真が入っている金庫を盗み出してほしいと頼まれる。雨川は、同僚の花林雄大(賀来賢人)と共に金庫を盗み出す。

 コムアイが演じる吉岡は、漫画では彼女自身の内面はあまり描かれないのだが、ドラマでは不法滞在の中国人だということが本人の口から語られ、雨川との甘いやりとりも描かれる。

 その後、彼女が金庫を開けた瞬間、猟銃を持った自暴自棄の男が現れ、吉岡は射殺されてしまう。

 この場面、漫画版ではかなり突き放した描かれ方をしている。対してドラマ版では、吉岡の内面に踏み込んで、殺される瞬間の内面を丁寧に描いていた。吉岡を演じるコムアイにとってはおいしい場面だったが、この見せ方は古谷実の世界観とは大きくズレているように感じた。

 古谷実の漫画に登場するのは、普通の生活を大事にする平凡な人々や、裏社会でヤバい仕事をしながら一攫千金を夢見るチンピラといった、名もなき存在ばかりだ。

 そんな人々の日常を古谷実は淡々と描き、ある日突然、惨劇に遭遇させる。絵で描かれた漫画でありながら圧倒的なリアリティが存在するのは、登場人物が徹底的に凡庸で短絡的な行動をする底の浅い人間として、突き放して描かれているからだろう。

 そんな彼らの日常のすぐ隣には、いつ何が起こってもおかしくない理不尽な暴力が存在する。そんな“通り魔的世界観”を描くことで、古谷実は圧倒的な文学性を確立した。

 そんな古谷の突き放した人間観と比べると、ドラマ版は演じる人間の見せ場を用意して丁寧に見せようとするあまり、描写が甘くなっている。

 最初に「役者がそれぞれ魅力的」と書いたが、そんな役者の華やかな部分こそが、無名の人々の日常を描く古谷実の世界においては足かせとなっているのだ。

 もしかしたら、これは1人で物語を紡ぐ漫画と、役者と一緒に物語をつくり上げていくテレビドラマの根本的な違いなのかもしれない。丁寧な見せ方が作品の魅力を損なってしまうというのは、実に皮肉な話である。
(文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家)

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