そもそも自動車に搭載されているインフレータは、経年劣化で交換することを前提にしていないという。化学物質の経年劣化を考慮して一定年数ごと交換するにしても、その裏付けが必要となるが、自動車メーカーはそうした知識を持ち合わせていない。この問題を追及し続けることは「危険性も理解していないものを自動車に搭載しているのか」という自動車メーカーに対する批判になりかねない。結局、自動車メーカーは、この化学物質の経年劣化の問題をうやむやにする。

臭いものにフタ

 それができたのも、タカタ製エアバッグのリコール問題が異例の経過をたどってきたからだ。本来、不具合があれば原因を特定してからリコール処理費用の負担を含めて責任の所在を明らかにするべきだ。しかし、タカタの場合、「硝酸アンモニウムがどうやら怪しい」という憶測をベースに、自動車メーカーは自主的にリコールした。

 しかもリコールは自動車メーカーの責任の下で実行されるが、今回の場合、部品メーカーのタカタが批判の矢面に立たされた。しかもタカタは、リコール費用によって経営破たんが確実視されていた。自動車メーカーから見れば、タカタがスポンサーとなるKSSに事業を移して退場すれば、異常破裂の真の原因や化学物質の経年劣化の問題を闇に葬ることはたやすい。

 異常破裂の原因がはっきりしないなか、タカタは民事再生法を申請した。エアバッグ、シートベルトの世界シェアが2割の大手サプライヤーのタカタが民事再生法を申請したことで連鎖倒産や自動車生産に支障が出ることが懸念されたものの、大きな混乱は起こっていない。東京地裁が事業継続に必要な取引先に対する優先的な債務弁済を許可したためで、重要な取引先には従来通りの条件で部品を発注している。政府や地方自治体が実施するセーフティネット保証制度や資金繰り支援策なども倒産抑制につながっている。

 ここまでは自動車メーカーが思い描いた通り順調にコトが進んでいるように見えるが、先行きを懸念する声もある。

 今年7月にはNHTSA(米国運輸省道路交通安全局)が、タカタの乾燥剤入りインフレータを搭載している日産自動車、マツダ、フォードのモデル合計約270万個のリコールを発表した。これまで乾燥剤入りインフレータは、異常破裂などの事故は発生しておらず、リコールの対象となっていないことから自動車業界に衝撃が広がった。乾燥剤入りのインフレータもリコール対象になると対象台数が大幅に膨らむためだ。ただ、NHTSAによると今回のリコール対象は乾燥剤に硫酸カルシウムが使用されているもので、これ以上は拡大しない見通しとするが「油断はできない」(日系自動車メーカー関係者)。

 一方、タカタはKSSに主な事業を移管した後も、乾燥剤入りのインフレータの生産は継続するが、米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)に対して、19年末までに乾燥剤入りのインフレータの安全性を証明することが義務付けられている。これが立証できなければ、乾燥剤入りインフレータもリコールしなければならなくなる可能性もある。リコール台数がさらに膨れ上がり、自動車メーカーが巨額の負担をさらに背負わされる可能性もある。

 化学物質の経年劣化問題など、臭いものにフタをしたかっこうの自動車メーカー。戦々恐々としながらも、タカタ問題が静かに収束するのを待ち望んでいる。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)

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