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もはや「ありきたり」のSL、東武が巨費投入…衰退一途の鬼怒川温泉復活の狙い、失敗か

文=小川裕夫/フリーランスライター
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もはや「ありきたり」のSL、東武が巨費投入…衰退一途の鬼怒川温泉復活の狙い、失敗かの画像1東武鉄道のSL「大樹」(「Wikipedia」より/663highland)

 夏休み真っ盛りの8月10日、東武鉄道SLを復活運行させた。今回復活させたSL「大樹」は、1回限りのイベント運行ではない。土日祝日や夏休み・大型連休・年末年始など、年間140日ほど運行する列車だ。

 かつて、日本全国を走っていたSLも近代化の流れで汽車、そして電車へと置き換わった。東武でもSLの運転は終了していたが、51年ぶりにSLを復活運転することになった。SLを運行する区間は、日光市内の下今市駅―鬼怒川温泉駅間。わずか12.4キロメートルしかない。

 SL復活でにわかに注目を浴びる東武は、SLの復活運行に向けて並々ならぬ情熱を注いできた。東武からSLの復活プロジェクトが発表されたのは、2015年の夏。半世紀前にSLの運行をやめていた東武は、車両を保有していなかった。また、車両だけではなく、SLの運行には方向転換のための転車台などの設備も必要になる。ハード面の整備だけでも、SL運行には莫大な費用がかかる。加えて、SLを運転する機関士・機関助士の育成、整備士も必要だ。

 車両や施設、人材育成の費用は安く見積もっても30億円。これらに加え、今後はランニングコストもかかる。通常の電車とは異なり、SLはメンテナンスが割高だ。そうした金勘定を考慮すると、話題性こそ抜群だがSLは運行だけで収益をあげることはできないとされてきた。

 東武が赤字覚悟でSLを復活させる背景には、東武が開発してきた観光地へのテコ入れといった思惑が色濃くにじんでいる。東武は、国内のみならず世界からも多くの観光客を呼び寄せる浅草・日光というネームバリューのある観光地を沿線に抱える。一方、東武が主導して開発した鬼怒川温泉は昭和50年代後半から衰退し、今もそれに歯止めがかからない。鬼怒川温泉には、東武が特急スペーシアを運行しているが、鬼怒川の魅力が薄れればスペーシアの乗車率にも大きく影響を及ぼし、東武の屋台骨を揺るがしかねない。今回のSL復活は、まさに鬼怒川の再生を賭けたプロジェクトでもあった。

 つまり、東武はSLの復活運転だけで採算が取れなくても、鬼怒川温泉に多くの観光客を呼び寄せることや東武そのもののブランド力を高めて沿線の不動産価値を向上させること、関連グッズの売上を伸ばすことを狙っている。それが達成できれば、SL運行は大成功といえる。

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