御嶽海は追う立場から追われる立場になり、相撲を覚えられてきている。玉鷲は先場所の負け越しの流れからか、勢いに陰りが生じている。そして嘉風は、まさかの4連敗スタートと思わぬ苦戦を強いられている。

 勢いの力がある時は上手くいくことも、一度落ち着くと上手くいかない。彼らはこの戦国場所にタイミングが合わなかったのかもしれない。そして、優勝するにはまだ地力が足りなかったのかもしれない。御嶽海は少しずつ立て直してきているが、彼らはいずれも凌ぐ15日間になりそうである。

 では一体、この九月場所で誰が素晴らしい相撲を取っているのだろうか。実はここに九月場所最大の「異変」が生じているのである。その筆頭に挙げられるのが、阿武咲である。
 
 阿武咲と書いて「おうのしょう」と読むこの21歳は、初の上位総当たり場所で序盤から5連勝している。初日から御嶽海を、2日目で嘉風を、3日目では玉鷲を破り、大関候補3人をすべて倒している。それだけでは飽き足らず、4日目には大関:照ノ富士を、5日目には横綱:日馬富士を破り、初金星を獲得している。

 彼の魅力は思い切りの良さだ。比較的小柄だが、それを逆手に取って下から相手を突き起こす取り口で体を浮かせ、スキが出来たところでさらに突く。相手が反撃に転じると待ってましたとばかりに引き落とす。もしくはそのまま突き切る。この取り口に誰もが手を焼いているのである。

 上位総当たりとなる初めての場所であることも、今場所の阿武咲には良い方向に作用している。まだ彼の取り口に、上位陣が対策を立てられていないのである。普通こういう場所は横綱大関の相撲の前に何もさせてもらえないものなのだが、彼らが不調であるために阿武咲は自分の相撲が取れる。その結果、見慣れぬ相撲の術中に嵌っている訳である。阿武咲の活躍は、彼自身の好調と上位の不調というタイミングが重なったことも一つの要因なのだ。

 阿武咲に続く好調力士としては、北勝富士と貴景勝が挙げられる。北勝富士は照ノ富士と日馬富士を破っている。そして、貴景勝は前頭五枚目に番付を落とした場所で得意の突き押しで勝利を重ねている。

 この3力士に共通して言えるのがいずれも若手で、アマチュア時代からエリートで、大きな怪我をしていないということだ。

 阿武咲と貴景勝は21歳、北勝富士は25歳だ。そして貴景勝は中学横綱、阿武咲は貴景勝のライバルとして準優勝。そして北勝富士は高校横綱で、輝かしい経歴を引っ提げて角界入りししている。

 上位陣が怪我に苦しみ、大関候補達がつまずき、勢いのある実力派の若手力士が印象的な活躍をする、「異変」だらけの大相撲九月場所。横綱大関、大関候補の巻き返しはあるのか。若手がその勢いのまま突っ走り、「異変」は歴史を創るのか。

 もしかすると、私たちは歴史の転換点を目撃することになるのかもしれない。暗い話題が先行しているが、明るい話題も多い。多くの方が目を離している間にドラマは生まれるのかもしれない。その現場を観るか観ないかは、あなた次第である。
(文=西尾 克洋/相撲ライター)

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