
柴咲コウが主演するNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』の第38回が24日に放送され、平均視聴率が11.7%だったことがわかった(関東地区平均、ビデオリサーチ調べ)。前回からは1.6ポイントのダウン。武田信玄(松平健)や徳川家康(阿部サダヲ)といった有名武将が登場し、歴史の歯車をガラガラと動かしていく激動の展開が続いているものの、直虎(柴咲)自身がそこにほとんどかかわらないことが影響したのかもしれない。
領地を持つ武家としての井伊家がなくなってしまったため、もはや直虎は領主ではなく、村人たちなどと同じ一領民でしかない。虎松(菅田将暉)が家康に仕えるまでの間はさしたる見せ場もないはずで、ドラマとしてこの間をどう描くかが難しいことは大いに推察する。だからといって、先週に続いて今週も相変わらず直虎が龍雲丸(柳楽優弥)にくっついて堺に行くかどうかでグダグダするだけの展開を見せられても、なかなか厳しいものがある。
結局、直虎が井伊谷に未練をたっぷり残していることを悟った龍雲丸が無理やり彼女を残らせたという結末になったが、なんだか無駄な展開だったなあという印象しか残らない。龍雲丸が直虎の心中を思いやって残らせたというより、ドラマの進行上直虎が堺に行ってしまっては困るから行かなくしたんだろうなあと思えてしまう。だったら最初から龍雲丸に「中村屋(本田博太郎)に誘われたから堺に行ってくるわ」と言わせて、一人で旅立たせてしまえば良かったと思うのだが。
別れの際に2人が口づけを交わすのもお腹いっぱいだし、10年でも20年でも直虎を待つと話した龍雲丸が「やはり心のままに生きてほしい」と直虎に言われた途端に「うん、そっちも」とあっさり受け入れる、早すぎる切り替えについていけない。
龍雲丸が直虎のもとを去ったことで、視聴者の間では今作における彼の必要性についての疑問が再燃しているようだ。とはいえ、直虎を支える男たちの1人として一定の役割は果たしたと思うし、気賀の町が徳川に攻められた堀川城の戦いのエピソードでは、戦の不条理を描写する上でなくてはならないキャラクターであったことは間違いない。ただ、その後何をするわけでもなく井伊谷に留まり、直虎とよくわからない関係のまま何年も暮らしたのは蛇足だったのではないか。
龍雲丸が再登場するかどうかは不明だが、堺に行ったことになっていることから、本能寺の変の後に、家康が堺から三河に逃げ帰った「神君伊賀越え」に何らかの形でかかわるのではないかとの予想もある。虎松もこの時家康を護衛して功を上げていることから、それを密かに龍雲丸がサポートしていたという流れは十分ありそうだ。別に視聴者が気をもむ話でもないが、せっかく登場したオリジナルキャラなのだから、持て余さずに最後まで活かしきってほしい。
『直虎』公式サイトで公開された予告映像を見る限り、来週以降は虎松が徳川の家臣として奮闘し、井伊直政として立身出世を目指す物語が描かれていくようだ。井伊家再興の野望に燃えて突っ走る直政の物語はおもしろそうだし、血気盛んで常に暴走気味な直政像に須田はぴったりだと思う。描くべきエピソードが少なかった直虎に比べ、直政は後世に残るエピソードが非常に多い。それだけに、今さらながら『葵徳川三代』のように井伊直虎と井伊直政の2人を主人公に据えて2代にわたる井伊家の歴史を描いても良かったのではないかとの思いがぬぐえない。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)