
物価伸び悩みの背景
日本銀行が大規模な金融緩和を続けているにもかかわらず、物価が伸び悩んでいる。この背景には、企業の価格転嫁メカニズムが破壊されていることがある。つまり、過去15年以上のデフレのトラウマで、企業経営者が値上げに臆病になっている。合理的な経営判断では値上げをして収益を確保したほうが良い場合でも、値上げをすると売れなくなると企業が過剰に心配している。
すなわち、値上げよりもコスト削減で収益を稼ぐほうへバイアスがかかっている可能性がある。欧米は量的緩和政策によりデフレを阻止した。しかし、日本は染みついたデフレマインドの払拭のために相当大胆なことをやらないといけないだろう。

金融政策でこれ以上何ができるのか
今の金融政策の枠組みであるイールドカーブコントロールには限界がある。なぜなら、今は舟の帆を張り、米景気回復などの追い風が吹くことで前に進んでいるからである。この背景には、期待インフレ率が上昇して世界各国の長期金利に上昇圧力がかかれば、ゼロ近辺にアンカリングしている日本の長期金利との金利差が拡大し、円安になりやすいことがある。
しかし、期待インフレ率が低下して世界各国の長期金利に低下圧力がかかれば、ゼロ近辺にアンカリングしている日本の長期金利との金利差が縮小し、円高になりやすい。つまり、向かい風が吹くと後退してしまうため、数年以内に日銀は試練のときを迎える可能性があるだろう。
というのも、リーマン・ショック以降、米国経済は8年以上にわたって景気拡張を続けている。しかし、残念ながら永遠に上昇し続ける景気はない。過去の米国におけるGDPギャップと景気後退期の関係からすれば、早ければ再来年にも米国の景気後退が始まり、米国が再び金融緩和に動く可能性がある。そうなれば、今の仕組みのままでは間違いなく円高になるだろう。
つまり、イールドカーブコントロール政策は、世界経済が好調なときは威力を発揮し、特に米国が金融引き締めを行っているときは、大きくプラスに働くが、リセッションを迎えた米国が金融緩和に転じれば、今のスキームでは円高を抑え込めない可能性がある。
