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『けものフレンズ』監督降板騒動に見え隠れする大人の事情、アニメの権利は誰のもの?

文=編集部
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kemono550.jpg『けものフレンズプロジェクト』公式サイトより

 9月25日、大ヒットアニメ『けものフレンズ』(テレビ東京系)を手掛けたたつき監督が、Twitterで「突然ですが、けものフレンズのアニメから外れる事になりました。ざっくりカドカワさん方面よりのお達しみたいです。すみません、僕もとても残念です」(@irodori7)と、アニメの制作から外れることを突如明かしたことから、ネット上やSNSに悲痛な叫びがあふれるという、ファンに「9.25けもフレ事件」と命名されたこの騒動。

 26日深夜には『けものフレンズプロジェクト』公式サイトに、
 ・新規映像プロジェクトは、現時点でまだ何も決定していない
 ・8月に入った段階で、ヤオヨロズから制作を辞退したいと打診
 ・ヤオヨロズには、関係各所への情報共有や連絡がないままでの作品利用があった
 ・情報は事前に共有してほしい旨の正常化を図る申し入れをしたが、
  ヤオヨロズはその条件を受け入れられないので制作を辞退したいと返事があった
 といった内容の監督降板に関するお知らせが掲載された。

 だが、8月9日にJRAとのコラボ企画で「けいばじょう」、8月25日には『Animelo Summer Live 2017 -THE CARD-』用に「あにさま」、そして9月19日には日清の「どん兵衛」とのコラボ企画で「ふっくら」といったショートアニメをたつき監督は制作しており、Twitterでは各新動画の告知ツイートをはじめ、『けものフレンズ』関連の新トピックをマメにリツイートしていた。「僕もとても残念です」という一言もあわせて考えると、とても8月に入った段階で制作を降りたいと申し出ていたようには見えない。

 また「JRAと日清はそれぞれの公式サイトで正規に許諾を得て制作したものだとすでに公表。たつき監督は放送終了直後の4月5日に、非公式の自主制作映像「ばすてき」を発表しているが、こちらも関係各所、そして『けものフレンズ』プロジェクト産みの親・吉崎観音からも許可を得たものであることが、スタッフインタビューなどで明かされているため、「ヤオヨロズには、関係各所への情報共有や連絡がないままでの作品利用があった」という指摘が具体的に何を指すのかが、いまいち判然としない。

 一方でアニメ『けものフレンズ』の制作は、少人数のコアなメンバーを中心にフットワーク軽く行われていたこともインタビューなどで語られている。話題・人気作となり多種多様なコラボ企画などが行われているだけに、遅れてプロジェクトに乗り出した製作委員会参加企業のスタッフが、「情報は事前に共有してほしい」と感じるケースは有り得なくもなさそう。

 ともあれヤオヨロズ側からは公式コメントがないため、ネット上では各ニュースサイトやまとめサイトが記事を乱発、ファンたちが怒りを吐きまくり、アンチがここぞとばかりに叩く、憶測・推測・邪推が入り乱れるカオスな状況となっている。

 そもそも、人気マンガ『ケロロ軍曹』などで知られるマンガ家・吉崎観音のイラストと世界観を使ったIPを創出することを目的に、「動物」を原作とした『けものフレンズ』によるメディアミックスプロジェクトを、吉崎観音と株式会社KADOKAWA コミックス編集部編集長・梶井斉の2人が立ち上げたことから動き出した『けものフレンズプロジェクト』。

 2014年から制作が始まり、作り上げられた世界観やキャラクターたちを生かし、まず15年3月からネクソンによるアプリゲームが始動、その後漫画版が「月刊少年エース」にて15年7月号から連載開始に。

 ところが、アプリゲームはテレビアニメ放送直前の16年12月でサービス終了、漫画版も放送中の17年3月号で連載が終了。アニメ系ニュースサイトによる「放送前の期待度ランキング」といった企画の記事では、軒並み下位クラス――そんな大逆風のなか、17年1月から放送が始まったアニメ『けものフレンズ』は、独特のテンポと癒される世界観やキャラクターたちの魅力、そして感動のストーリーが受け、口コミで話題を呼び、17年最大のヒットテレビアニメとなったのだ。

 たとえどんなに人気となったアニメでも、スケジュールや大人の都合で続編制作時にスタッフが変更されることは、しばしばあることではある。なのになぜ、『けもフレ』に限って大騒ぎとなったのかというと、3DCGで描かれた『けもフレ』はテレビアニメとしては極めて異例の少人数で制作されており、たつき監督は監督・シリーズ構成・脚本・コンテ・演出・美術デザイン・OP絵コンテなど、スタッフへのインタビューでは「声優以外は全部」と冗談交じりにコメントされるほど多岐に渡って活躍。

 加えてイベント登壇時やインタビュー、対談などを通じて『けもフレ』制作に並々ならぬ情熱で当っていたこと、吉崎観音との関係も互いをリスペクトしあう良好なものであったように見られていたこともあって、ファンから「吉崎観音先生とたつき監督あってのアニメ『けもフレ』」と認識されていたからこそ、大炎上となってしまったのだろう。

 多大な貢献を果たしたとはいえ、アニメ『けもフレ』の権利は『けものフレンズプロジェクト』や製作委員会に属しているはず。アニメの著作権は原作や音楽の著作権、声優の著作隣接権なども絡んでおり、とにかく複雑なのだが、基本的には出資者=製作委員会メンバーが共有するケースがほとんど。オリジナルアニメ作品であれば脚本家には権利が発生することも多いが、対して監督やアニメーターに権利が生じることはあまりない(アニメ『けものフレンズ』では当初シリーズ構成・脚本としてクレジットされていた田辺茂範が、放送終了後の5月26日からたつきへと変更されている)。

『機動戦士ガンダム』の富野由悠季監督ですら、『ガンダム』シリーズの著作権を手放しているぐらいなのだから、アニメ『けものフレンズ』第2期制作にあたり、権利元とたつき監督やヤオヨロズのあいだに意見の齟齬が発生し、その溝がどうしても埋まらないとなれば、監督降板となってしまうのも、残念ながら止むを得ないことなのかもしれない(なお、ヤオヨロズを関連会社として抱える芸能事務所ジャストプロもアニメ『けもフレ』の出資会社の一員ではある)。

 とはいえ、放送開始前はとても注目作とは言いがたく、グッズの展開や宣伝もあまり活発ではなかった『けものフレンズ』(通常、テレビアニメの宣伝業務は映像パッケージの販売元が担当するケースが多いのだが、『けものフレンズ』では筆者がたつき監督や福原慶匡PDに取材を申し込んだ際も、イベント取材に訪れた際も、取材対応はジャストプロやヤオヨロズが行ってくれていた)。

 そんな『けものフレンズ』がここまでの人気作となったのも、吉崎観音がデザインした魅力的な世界とキャラクターたちと、たつき監督とヤオヨロズの頑張り、そしてファンの口コミによる広がりの影響が大きかったはず。監督を変更するなら変更するで、せめてファンが納得できるような説明を再度求めたいところ。

 26日にはカドカワ社長でドワンゴ会長の川上量生氏が「ぼくも心配しています」と、ジャーナリストの質問に答える形でマストドンでコメント、さらに28日にはテレビ東京の小孫茂社長が低絵里の社長会見で、「製作委員会の一員として、すでに発表されているような第2弾ができる方策をいろんな形で模索していければと」「全国あるいは世界多くのファンの皆さんとまったく同じ思い」などと発言するなど、関係者たちのなかでも意見が別れているようにも見えるので、騒動の推移に注目したい。
(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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