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金子智朗「会計士による会計的でないビジネス教室」

東芝、メモリ事業売却で不可解な点…「クロス取引」で監査法人が問題視する可能性も

文=金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表

グレーな「再出資」

 東芝は今回、100%子会社である東芝メモリの全株式を総額2兆円で売却し、その後3,505億円の再出資をする。東芝の試算によれば、株式の売却益によって株主資本は約7,400億円の増加が見込めるとのことなので、これで株主資本をプラスにできるわけだ。また、3,505億円の再出資するのは、売却後も持分法適用会社にして、一定の影響力を維持するためである。3,505億円は17.525%に相当するのでこれだけでは持分法適用会社にならないが、代表取締役を東芝から出し続けることによって持分法適用会社にする考えだろう。

 ここで気になるのが、なぜ「再出資」という方法を採るのかである。17.525%の議決権を保有し続けたいならば、最初から「100%-17.525%=82.475%」だけ売却すればいいようなものだ。

 具体的な会計処理方法は明らかにされていないのであくまでも推測であるが、約7,400億円の株主資本増加額が全株式売却によるものだとすると、最初から82.475%だけを売却した場合は、株主資本の増加額は7,400億円×82.475%=約6,103億円にとどまる。これではマイナス5,042億円の株主資本をプラスにするにはギリギリになってしまう。そこで、全株式の売却益を顕在化させた後に再出資というスキームにしたのではないだろうか。

 もしそうだとすると、再出資分の売却益が認められるかどうかはかなり疑問だ。再出資の実態は、子会社株式の「クロス取引」だからだ。

「クロス取引」とは、ある株式を売却した直後に同一銘柄の株式を買い戻す取引である。時価会計がまだ適用されていなかった時代に、恣意的な益出し操作によく使われた取引である。時価会計が制度化された現在でも、子会社株式は時価会計の対象外であるので、再出資分の売却益を計上することは、クロス取引によって時価会計の対象外である子会社株式の含み益を恣意的に顕在化させていることに等しい。

 もし、東芝発表の株主資本増加額には再出資分も含まれているとなると、監査法人の判断に焦点が移る。監査法人が認めたとなると、認めた監査法人が問題視される可能性がある。監査法人からの了承がまだだとすると、再び監査法人とのバトルが始まるだろう。

 東芝はそれがクロス取引であることを認識しており、東芝発表の株主資本増加額にはその分は含まれていないということであれば、私の単なる杞憂で終わる。ただその場合は、なぜわざわざ再出資という方法を採るのか、その理由がよくわからない。
(文=金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表)

金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表

金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表

1965年神奈川県生まれ。東京大学工学部卒業。東京大学大学院工学系研究科修士課程卒業。卒業後、日本航空(株)において情報システムの企画・開発に従事。在職中の1996年に公認会計士第2次試験合格。同年プライスウォーターハウスコンサルタント(株)入社。2000年公認会計士登録し、独立。2003税理士登録。2006年ブライトワイズコンサルティング合同会社(www.brightwise.jp)設立、代表社員就任(現任)。
ブライトワイズコンサルティング

Twitter:@TomKaneko

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