
ヤマト運輸が、宅配便の個人向け料金の引き上げをすることになった。その主な理由は、アマゾンのネット通販を経由した物流の増大に、ドライバー数の確保が追い付かなかったからだ。いうまでもなく、これは人手不足の顕著な例である。
経済学の価格理論に基づいてヤマトの値上げを分析すると、配送価格(供給価格)が低すぎたため、供給を上回る需要が発生してきたと考えられる。供給力が限界に達したことを受けて、ヤマトは価格を引き上げることで需要の抑制を図ろうとしている。これは、経済学の理論に基づけば、正当な発想だ。
ヤマトが吸収しきれないほどの需要を集め、それに対応できなかったことに関する議論はさまざまある。たとえば、ヤマトの時間指定再配達サービスが“過剰である”との指摘は多い。そもそも、必要以上のサービスを追加料金なしで提供していたのだから、料金の引き上げは当然だろうと考える経済学者は多いようだ。
しかし、こうした指摘が本質的だとは考えづらい部分もある。ヤマトはきめ細やかなサービスの提供によって国民の支持を得た企業だと評価できる。それゆえ、同社は値上げに二の足を踏んできた。今回の料金引き上げが顧客離れにつながらないとも限らない。人手不足という深刻な問題に直面するなか、料金の引き上げだけで同社の競争力が維持できるとは考えづらい。
正念場を迎えるヤマト運輸
ネット通販大手アマゾンのプライムサービスの普及に伴い、多くの人々にとって自宅に居ながらほしいものを購入し、自宅で受け取ることが当たり前になりつつある。特に、プライム会員の場合、注文した当日、あるいは翌日に、配送料を払わずに品物を受け取ることが可能だ。これは実に便利である。
それを支えてきたのが、ヤマトだった。物流量の増加にもかかわらず、ヤマトは宅配便の個人向け料金を引き上げることなく、再配達も含めてサービス内容も維持してきた。人手不足が深刻化するなか、同社はパートタイマーの確保にも力を入れたが、物流量の増加ペースはそれをはるかに上回るものだった。その結果、現場が疲弊し、需要の取りこぼしが顕在化してきたのである。
この状況を「デフレ脱却の好機」などと評する専門家もいるようだ。確かに、ヤマト単体で見れば、さばききれない需要が集中したことは明らかだ。ただ、それはヤマトの“臥薪嘗胆”の結果ということもできるだろう。物流業界全体がヤマトと同じ状況に直面したわけではない。