
近頃よく耳にするようになった言葉に、「印象操作」がある。国会審議に関するニュースなどで、「印象操作はやめてください!」「印象操作をしているのはそっちでしょう!」といった応酬を目撃することが、しばしばあったからだろう。政治にはまったく関心のない学生までが、「お前、印象操作してるな」などと口にしたりする。
このように世間に広まった印象操作だが、実のところ、どのような言動を指すのかよくわからないという人が少なくないようだ。私が心理学者だということもあって、印象操作について教えてほしいと言われることもある。文字通り、人に与える印象を操作することだというくらいはわかるが、具体的にどんな言動がそれに当たるのかを知りたいという。
そこで今回は、印象操作にはどのようなものがあるのか、またその背後にはどんな心理メカニズムが働いているのかについて、解き明かしていくことにしたい。
ちょっと余計なことを言うと、実はどちらが印象操作をしているのかといった応酬においては、最初にその言葉を口にしたほうがやっている可能性が高い。なぜなら、ムキになって反論するとき、真っ先に思い浮かぶ言葉は、本人が特に心の中で意識している言葉だからだ。だが、そうしたことはここでは棚上げして、印象操作そのものについて考えてみることにしたい。
もともと印象操作というのは、社会心理学者ゴフマンが唱えたもので、人に与える印象をマネジメントすることを指す。その方法として使われるのが「セルフ・プレゼンテーション」、日本語にすると「自己呈示」である。これは、どんな印象を与えたいか、あるいはどんな印象を持たれるのを避けたいかを念頭に置き、自分の見せ方を調整する、つまり自分の言動を調整することである。
印象操作などいうと、いかにもあくどい人間がするもの、そこまでではなくても、政治家など駆け引きを常套手段とする人物がするものであって、自分には無縁だと思っている人もいるかもしれない。だが、決してそんなことはない。
では、印象操作とは具体的にどのような言動を指すのか。それがわかれば、実は誰もが日常生活のなかで、ごく普通にしていることだとわかるはずだ。