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東電、原発事故で事業停止した企業へ賠償金支払い拒否…「所在地は対象外」と虚偽の説明

文=明石昇二郎/ルポライター
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 文科省の汚染マップによれば、ホテルを出て郡山駅に近づいていくにつれ、放射線量が上がるようだった。駅に向かって歩いていくと簡易測定器の数値はどんどん上がり続け、郡山駅東口駅前広場ではなんと毎時1.8マイクロシーベルトを記録し、絶句する。放射線管理区域に指定し、その旨を表示した看板を立て、立ち入ることができるのは診療放射線技師等の資格を持った者だけにすべきレベルの深刻な汚染だ。

 国が定める「放射線管理区域」の目安は、毎時0.6マイクロシーベルトの空間線量であり、ここではその3倍の放射線が飛び交っている。人の行き交う中、アラーム音が鳴り続けて止まらないので、アラームが「毎時0.6マイクロシーベルト以上」で鳴るように設定していた簡易測定器の電源を切る。

 呆然と立ちすくむ私のすぐ前を、マスクもしないOLや学生服姿の若者たちが何ごともなかったかのように次々と通り過ぎていく。公衆が行き交うのが当たり前の場所であれば、放射線への感受性が高い人も、きっとここを通るだろう。

 私のような取材記者がこうした場所に滞在するのは、ほんの一瞬のことでしかない。心配なのは、この場所で日々、暮らし続け、被曝し続ける一人ひとりの郡山市民である。何しろ放射線は見えない。今の福島県で生活し続ける人たちにこそ、簡易測定器や積算線量計が必要だった。
         
 引用は以上である。A社がクラブを再オープンする1カ月前の郡山駅周辺の汚染状況はこのようなものであり、女性従業員たちが大挙して避難してしまったのも無理からぬことだった。

青天井で保護される「加害企業」が賠償金を値切る

 11年8月、文部科学省の下に設置された原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)が「中間指針」を発表。東電は、この指針に基づき被害者への補償をするとした。だが、加害企業である東電はこれまで、「自分たちには法的責任がある」ということを表明していない。国が定めた原子力損害賠償制度と、原賠審が出した「指針」に基づき補償するというスタンスを、東電は頑なに取り続けている。つまり、法的責任を曖昧にしたまま、被害者に対して「補償」話を提示してきたわけである。そしてこの曖昧なスタンスこそが、A社とその関係者たちを6年もの間、苦しめ続けている。

 クラブを再開させたものの、売上が回復せずに苦しむA社は11年9月、東電の「補償相談室」に問い合わせた。すると、「A社様の所在地(すなわち郡山市)は賠償の対象外となっておりますので、お支払いできません」と言われる。あたかも加害者が被害者に“施し”をしてやるかのような物言いである。

 実を言うと東電は、11年9月26日に郡山市で賠償説明会を行なっていた。A社も出席していたその説明会で、東電は次のように説明していたという。

・郡山市内の法人は、減収分が賠償の対象になる。
・決算書があれば請求できる。
・基準年度は直近3年のうち、売上が一番高い年でいい。
・賠償請求は被害者が因果関係を証明するものだが、請求書による賠償請求では、因果関係の証明なしに東電が責任を認める。請求書がなければ膨大な時間がかかり、賠償金の支払い時期がいつになるかわからないので、請求書で賠償請求をしていただきたい。
         
 その一方で東電の補償相談室はA社に対して賠償はできないとし、なぜ請求できないのか尋ねても、「理由はお答えできない」と言うのである。
 
 郡山市内に限らず、福島県内では風評被害による減収に対する賠償が行なわれていた。事故前後の粗利の差を決算書で比較して、下がっていたら「逸失利益」として賠償するという考え方に基づく。この考え方に基づけば、事業規模を縮小した場合も、業種を変えた場合も、決算書が赤字だった場合も、さらには会社の所在地を福島県外に移した場合も、東電は賠償することになる。計算方法が簡便なため、東電に直接請求して賠償金を受け取った法人も多い。

 繁盛店だったA社のクラブの場合、この計算方法で算出した逸失利益は事故後の半年間でおよそ1億1300万円にのぼっていた(前年比)。むろんその間も、従業員たちに給料を支払い続けていた。

 A社では、原発事故の発生に伴い東電からの賠償を受けていた福島県内の美容室、居酒屋、造園業、カラオケ店、旅館、ホテル、冠婚葬祭業者などに、東電の対応について尋ねてみた。だが、A社と同じような扱いを受けた法人はひとつもなく、なぜか東電はA社に対してだけ賠償金を払えないというのだ。

 解決を図るにはもはや直接交渉では埒が明かないと考えたA社は11年12月、ADRセンターに仲介を申し立てた。しかしADRセンターは、1年近く待っても和解案を出す気配がない。まったく頼りにならないので、ADRセンターへの申し立てを取り下げ、再び東電と直接交渉することにした。今度は、公認会計士からの助言も得ながら交渉する。

 13年4月、東電が和解案を提示。金額は1471万円だった。A社にしてみれば、半年間の逸失利益の10分の1程度の金額である。とても承服できる和解案ではない。A社は14年12月、東京地裁に提訴した。

 だが、16年9月に裁判所が示したA社の逸失利益は、なんと“ゼロ査定”。原発事故による被害を一銭も認めないという、常軌を逸した判決だった。
 
 なぜ、こんなことになったのか。
(文=明石昇二郎/ルポライター)

※後編に続く

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