迷走する戦略策定
イオンの問題は、経営者自身がこの構造を理解していないことにあるのかもしれない。今年5月の株主総会で、同社は20年2月期に営業利益2900億円とする目標を発表した。いわゆる3年計画で、今回上方修正した18年2月期の2000億円から半分近くも営業利益を積み上げる、とした。ただし、この段階では目標だけをぶち上げたものの、そのための達成手段やいわゆるアクション・プランは示さなかった。
実は株主総会に先立つ今年4月には17~19年度を対象とする新しい中期経営計画を公表していたのだが、「グループ事業構造の改革」「事業基盤の刷新」といった課題の列挙にとどまり、具体的な施策は明らかにしなかった、あるいはできなかったという経緯がある。今回10月4日の決算発表では、イオンリテールの岡崎社長が「11月には中長期の経営計画を発表する」とし、宿題への答案を提出する構えを見せた。
さて、同社はまず「目標」を設定してしまった。その目標への道程は示さないままに、と非難もされている。しかし戦略策定のステップからみると、実はそれで良いのである。「目標」はその時限内での到達したい「経営者の志」なので、何をぶち上げても構わない。
「目標設定」の次に「課題の認識」が戦略策定のステップとしてくる。このとき、「重要課題」は先に設定された「目標」と連動する必要がない。というより、連動させてしまうと、それぞれの課題が持つ重要性とは関係なく「重要課題」が認識される弊害がある。「目標」とのつながりが意識されないほうがいい。
イオンの場合、「グループ事業構造の改革」「事業基盤の刷新」などが目標設定に先立って重要課題として列挙されたのであるが、それはそれでいい。「重要課題」の定義は「それを解決、克服できれば業績の大幅な改善や伸張につながると期待できるもの」だからである。
設定した「重要課題」の個々に対して、今度は「解決策-アクション・プラン」を考える、というのが「課題解決型の戦略策定法」の定番だ。イオンの場合は図らずもこのステップを進んでいるように見えなくもない。問題は、同グループのビジネスの基本構造-ビジネス・モデル-がすでに大規模流通業ではない、ということを経営陣が共通して認識しているかだ。
現状の利益構造に対して、流通業大手として邁進してきた役員の皆さんが意図しなかったビジネス・モデルの変容に対して何かコンプレックスを感じたりして、原状回帰あるいは祖業のテコ入れなどを企むと、それは失敗してしまうだろう。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)
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