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遺伝性疾患も遺伝子治療で改善する時代に突入…視力が劇的に回復

文=ヘルスプレス編集部
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<目の見えない人>の世界が変わる! 米国で遺伝性疾患の治療薬が次々と登場の画像1米国で稀な遺伝性網膜疾患の「遺伝子治療薬」が初承認へ(depositphotos.com)

 先進的な遺伝子治療のフロンティアが、また新たな日の目を見る日が来そうだ。

 10月12日付「HealthDay News」記事によると、米国食品医薬品局(FDA)の諮問委員会は、「RPE65遺伝子変異」を原因とする「稀な遺伝性網膜疾患に有効な遺伝子治療薬」の承認を勧告することを全会一致で決定したと発表した。承認されれば、米国初の遺伝性疾患に対する遺伝子治療となる。

遺伝性網膜疾患の患者は米国内に約1000人

 この遺伝子治療薬を開発した米国の製薬企業「Spark Therapeutics社」によると、遺伝性網膜疾患は若年期から進行し、最終的に失明する場合が多い。しかし、有効な治療薬はなかった。

 今回の遺伝子治療薬の「voretigene neparvovec(商品名 Luxturna)」は、人体に無害なウイルスをベクターとして用いたRPE65遺伝子を、網膜内の細胞に注入する。投与によって、遺伝子が正常な状態に修復され、細胞の機能が回復する。同薬の開発にも参加した医師は「最大限の回復のためには両眼に注入する必要がある」と説明する。

 遺伝性網膜疾患の患者団体「Foundation Fighting Blindness」のスティーブン・ローズ氏によると米国には、失明の可能性がある遺伝性疾患の患者が約20万人いるという。遺伝性網膜疾患に関連する約250の遺伝子が同定されている。RPE65遺伝子はそのひとつで、患者数は約1000人とみられている。

 Luxturnaによる治療は、RPE65遺伝子変異のある患者の視力を正常レベルにまで回復させるわけではないが、視機能は改善する。ローズ氏は「この治療によって患者は盲導犬や杖なしで移動できるようになる可能性がある。治療法がなかった患者に希望をもたらす新たな治療法だ」と話す。

10年以上前に治療を受けた患者の視力は現在も維持

 FDAの諮問委員会が同薬の承認を勧告する根拠としている遺伝子治療薬の臨床試験では、Luxturnaによる治療を受けた患者29人のうち27人(93%)にmulti-luminance mobility test (MLMT)で評価した視機能の改善が認められた。

 治験の対象患者には4歳の小児もいたが、ローズ氏は「できるだけ早い時期に治療を行い、網膜変性を抑制することが理想的だ。治療効果が生涯続くかどうかは不明だが、10年以上前にこの治療を受けた患者の視力は現在も維持されている」と述べる。

 AP通信は、この治療を3年前に受けたコール・カーパーさん(11歳)と姉のキャロラインさん(13歳)を紹介している。コールさんは治療後、空を見上げて母に「あの光るものは何?」と尋ね、「あれは星よ」と教えられ驚いた。キャロラインさんは「治療の後、雪や雨が降ってくるのを見て本当に驚いた。雨や雪は地面にあるものだと思っていた」と語っている。

 今後、Luxturna が承認されれば、2種類の血液がんに対する抗CD19キメラ抗原受容体T細胞(CART)療法に続く3件目の遺伝子治療の承認となり、遺伝性疾患に対する遺伝子治療としては初となる。

 米ニクラウス小児病院のゼニア・アギレラ氏は「遺伝性眼疾患の遺伝子治療においてFDAは、大きな一歩を踏み出した。治療費の算定や保険適用などの課題は残るが、救済される患者の恩恵は計り知れない」と期待を寄せている。

国内初の遺伝子治療薬、来年にも承認・発売か?

 この遺伝子治療の成果がどれほど貴重かつ先進的かは、明確なエビデンスに基づいたFDAの承認が、先述のように2種類の血液がんに対する抗CD19キメラ抗原受容体T細胞(CART)療法しかない事実からも明らかだ。

 今年、先進医療をイノベーションしそうな大きな動きが国内にもある。

 5月10日、創薬ベンチャーの「アンジェスMG」は、代替治療が困難な慢性動脈閉塞症(閉塞性動脈硬化症またはビュルガー病)の患者を対象とするHGF 遺伝子治療薬「ベペルミノゲンペルプラスミド」の医師主導型臨床研究(非盲検単群試験)の被験者への投与を開始した。治験は、大阪大学医学部附属病院が主導し、神戸・佐賀・新潟・徳島・愛媛大学医学部附属病院が協力している。

 6月9日、アンジェスMGは10月をめどに厚生労働省にベペルミノゲンペルプラスミドの販売承認を申請すると発表。承認されれば、国内初の遺伝子治療薬となる。来年中の発売をめざしている(アンジェスMGプレスリリース)。

 ちなみに、先進医療は最新の医療技術のうち安全性と治療効果が確保され、保険診療との併用(混合診療)が認められる医療を指す。

 さて、先に紹介されたコールさんとキャロラインさんの言葉に触れて思い出した本がある。『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社新書/伊藤亜紗)だ。

「私たちが最も頼っている視覚という感覚を取り除いてみると、身体は、そして世界の捉え方はどうなるのか。……見えないことは欠落ではなく、脳の内部に新しい扉が開かれること」とあったからだ。

 検眼者や健常者が決して知ることができない「光のない世界」の深さを教えられ、目が見える事実のありがたさに改めて気づかされる。ぜひ一読してほしい。
(文=ヘルスプレス編集部)

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