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早川書房、異端の出版社の正体…「たまたま」カズオ・イシグロ氏の版権独占の凄い経営

構成=長井雄一朗/ライター

――海外作家とのおつきあいはどのようにされていますか。

山口 そもそも、弊社は外国書籍を中心に扱っていますので、代理店やエージェントを通じておつきあいが多く、他社さんと比較すると入手する情報量がまったく異なります。事前にその作家さんが何を執筆しているかもわかっています。

 フィリップ・K・ディック氏原作の『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』が再度映画化され、現在は『ブレードランナー 2049』として上映中ですが、同氏とは1970年代からのおつきあいです。アガサ・クリスティーの『オリエント急行殺人事件』も映画化されます。ひとりの作家さんとのおつきあいや関係を大切にするのが弊社のモットーです。

――話はかわりますが、最近、御社では黒を基調とした表紙が多いようですが、何か意味はあるのでしょうか。ジョージ・オーウェルの新訳版『一九八四年』の表紙は意外でした。

山口 実は『一九八四年』は、前に私が担当していました。本当は、出版界の常識としては黒を基調とした表紙は売れないといわれているのですが、新訳版にした際、デザイナーさんが、中身がダークな話なので黒を基調にしようと提案されたのです。

 新訳版は、村上春樹氏が『一九八四年』のオマージュ作品である『1Q84』を発表したタイミングと偶然合い、多く売れました。興味深いことに、アメリカのドナルド・トランプ大統領の登場や安倍晋三政権下での「安全保障法制」の制定のタイミングでも売れています。20世紀の時代よりも21世紀の時代のほうが売れているのは皮肉なことです。

――21世紀において日本を含め世界中に、ビッグ・ブラザー(注『一九八四年』に登場する架空の人物)が誕生するとは思いませんでしたが。

山口 それに、不倫した人を徹底的に叩くということも「2分間憎悪」そのものですしね。

――さて、最後の質問です。イシグロ氏の新作はみなさん待っていると思うのですが、いつごろ発刊される予定でしょうか。

山口 今、執筆中ですが、どんな内容なのかは完成するまで教えてくれません。完成後、世界中の出版社に送ることになりますが、イギリスでの発刊後、間を置かず日本でも出版します。『忘れられた巨人』は『わたしを離さないで』から約10年ぶりの長編で、2015年に発刊しています。

 弊社としては、イシグロ氏のみならず世界中の魅力ある文学、経済書なども含めて提供していきたいと考えています。

――ありがとうございました。
(構成=長井雄一朗/ライター)

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