「僕は、フロントランナーを書こうとは思わない。書きたいのは、後ろのほうにいる人。今回の刑事さんもそうだし、『しんがり』の人々もそう。そういう人たちが土壇場になったり追い詰められたり、あるいはきわめて重要な場面で真価を発揮する――。その姿を書きたいんです。なかなか人間ってわかりづらいと思うんですよ。『人を見る目』ってよく言うけれど、人を見る目なんて実際にはわからない。取材してみて初めて、『ああ、この人にはこういう一面があったんだ』ということが少しずつわかってくるんだと思う」(同)

 巨人軍の代表だった時、清武氏は選手の立場に立った改革を行ってきた。それはノンフィクションでのテーマと通ずるところがあるのだろうか。

「共通するところは、たくさんあります。スター選手になる人っていうのは、だいたいそうなる確率が高い人がいるわけですよね。その人たちの力は想定内なんです。想定外の人たち、後ろにいる人たちが育ってきた時に、その組織は強くなります。それが野球でいうと、育成選手なんですよ。そういう列の後ろの人たちが力を発揮した時に、初めてその組織は変革されて強くなる。そういう人たちを大事にしない組織は、やっぱりダメになりますよ。

 さきほど『人間ってわからない』と言ったけれど、(米大リーグで活躍する)イチロー選手がドラフト何位だったか知っていますか。ドラフト4位なんですよ。イチローが今みたいになるとわかっていたら、ドラフト1位で取りますよ。それと同じで、人の真価ってなかなか土壇場にならないとわからない。『しんがり』の場面でもそうだし、今回の『石つぶて』の人々もそう。

 自分たちが、たまたま汚職を追っかけていった時に、なんかきわめて妙なお金に突き当たった。それをひたすら追っかけていく。非常に危険なことや、いろんな妨害がありつつも、一心になって突いていく――。そういうことだと思うんです。やっぱり人間ってわからないものだから、はみ出した人間が泳いでいけるような、そういう空気をつくることが大事だと思います。それはどんな組織でも一緒だな」(同)

『しんがり』も『石つぶて』も、最近の地上波のテレビでは見られなくなった、骨太な作品だ。

「忖度したり、同調圧力があって、『権力批判はいかがなものか』とか、『時事風刺がきつすぎるといかがなものか』とか、やっぱり強いものに巻かれろっていう番組になりがちですよね。WOWOWは、そういうタブーに挑んでいるところがある。そういうところがないとやっぱり世の中は良くならないですよ。ドラマとか映画は、やっぱり僕たちの理想の世界であってもらいたい。それは現実に近いものであり、現実を批判するものであればあるほど、人は惹かれると思う。アメリカに比べても、日本のドラマや映画は、忖度というか“タブー”を意識するようになっていると思うんです。

 実は、佐藤浩市さんが『今回のはアナーキーだからいい』と言っているらしいんです。役者さんも、そういうことを望んでいるんだと思って、驚きましたよ」(同)

次作では山一證券破綻からの20年を追う

 外務省機密費から約10億円を詐取し、愛人を囲ったり、14頭もの競走馬を買っていたのが、当時、外務省要人外国訪問支援室長だった松尾克俊だ。ドラマは原作をもとにしたフィクションだが愛人との逢瀬も生々しく描かれている。

「松尾っていうのは、単なる犯罪者じゃないわけです。やっぱり魅力的な人間だから、あそこまでいった。二課の刑事が、『公務員で不正な金を握る人間は、地位があるだけじゃなくて、それだけの度量があるからもらうんだ』と言っています。松尾は、プリズムみたいな人だと思う。簡単にスパンと割れるような人間じゃない。北村一輝さんが松尾(ドラマでの役名は真瀬)を演じるという配役には驚いたけれど、はまり役かもしれませんね。松尾はあんなにハンサムではありませんが」(同)

 今後も、清武氏は組織の中の名もなき人々を追っていくのだろうか。

「11月24日で、山一證券が破綻して20年になるんです。この20年間どうやって生きてきたのかということを100人ほどの人々に聞いて、それを物語にしています。『空あかり 山一證券“しんがり”百人の言葉』というタイトルです。『空あかり』というのは『希望』という意味です。うっすらとガラス越しに見えるような空の明かり。取材をしていたら、WOWOWの『しんがり』を見た人が、『確かにあの場面に自分がいた』と言うんです。ドラマというのは、すごい力があるんだなあと思います。そういう意味で言うと、『石つぶて』は刑事の話だから、皆が皆、泣くような話ではないと思います。でもやっぱり、怒りを持ってもらいたい。聖域のある社会というのは、決していい社会じゃない。聖域がひとつでもなくなるように、努力をしてもらいたいと思います」(同)

『空あかり 山一證券“しんがり”百人の言葉』(講談社)は、11月8日に発売される。どんな生き様が描かれているのか。ドラマ『石つぶて』とともに楽しみである。
(文=深笛義也/ライター)

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