
新薬の製造・販売が認可されて実際に病院で使われるようになったあと、「市販後調査」なるものが行われることがあります。具体的な手順が国際的に決められており、おおよそ次のようなものです。
まず数千人のボランティアを募り、調査に協力することに同意する書類にサインをしてもらいます。その後、年齢、性別をはじめ病歴、検査データ、喫煙や飲酒の習慣、居住地域などを詳しく調べ、これらに偏りが出ないようコンピューターを使って公平に2つのグループに分けます。
その一方には、調査の対象となる新薬を、もう一方のグループにはそっくりに似せてつくった偽薬を服用してもらうのです。後者は「プラセボ」と呼ばれ、非常に重要な働きをします。気は心とも言います。その昔、パン屑を丸めただけの偽薬を、血圧の薬と偽って多くの人に飲ませるという実験を行ったところ、本当に血圧が下がったという話もあります。こんなことを避けるためにプラセボは必要なのです。
さて、ここまでの説明でおわかりのように、薬の調査には人手も含めて莫大な費用がかかります。新薬がひとつでも当たれば巨万の富が生まれますから、当の製薬企業がスポンサーとなるのが自然の流れです。税金や浄財から研究費を受ける制度もなくはないのですが、競争が激しく金額も少なく、あてになりません。
薬の問題は、諸悪の根源がここにあると言っても過言ではないでしょう。スポンサーの意向に逆らうことはできませんし、かりにスポンサーが太っ腹で具体的な注文はなかったとしても、そこは人間の営みですから気遣いや遠慮が生じるに決まっています。
最新治療の根幹揺らぐ
具体的にどんなことが起こっているのか、カナダ発の論文で見てみましょう【注1】。いわゆる「痛み止め」にはいくつかの種類がありますが、働きがほぼ同じであることから、まとめて「非ステロイド性消炎鎮痛薬」とも呼ばれます。これらの薬を対象に、「開発した製薬企業がスポンサーになった調査」と「それ以外の研究費で行われた調査」で、結論に違いがあるかどうかを比べてみた、というタイムリーな内容です。
データを報じた56編の論文を精査した結果、わかったのは「やっぱり」と思わせるに十分なものでした。鎮痛剤がよく効いたと結論した論文は、薬を開発した製薬企業がスポンサーになっていたほうが、そうでないものに比べて2.5倍も多かったのです。副作用についても同様の傾向があり、製薬企業がスポンサーになっていたほうで「心配ない」と結論した論文があきらかに多かったそうです。