だが、女将の引っ越しでは、自分で荷物を梱包し、ダンボールに番号を振ることもしていなかった。まさかダンボールごとなくなるとは思ってもみなかったからだ。

 さらに女将はもう一つ、失敗をしていた。引っ越し当日、求められるままに「引っ越し完了」のサインに応じてしまっていたことだ。ダンボールが紛失したのだから、引っ越しは「完了」していないのだが、その際には気づかなかったのだという。

「CMも流している大手の業者だから安心だろうと思って頼んだのだけれど、もう頼めない。実は、前の自宅にもう少し荷物が残っているんだけど、違う引っ越し業者にお願いするつもり」(女将)

 この大手引っ越し業者の担当者の話では、こうしたケースの場合、被害額を弁償するかたちで補償するのだという。だが、女将の怒りは収まらない。紛失したダンボールの中には、思い出の品や記念品といった、お金では買い戻せない物まで入っていたからだ。

 いうまでもなく、引っ越し荷物の窃盗は立派な犯罪である。ただ、筆者の周りでは初めて聞く話だった。ニュースでも耳にしない。となると、こうしたケースの多くは被害者が泣き寝入りをしているだけで、実は頻発しているのかもしれない――。

 そう思い、インターネットで調べてみたところ、「引っ越し中に消える荷物」の話題は今や花盛り状態で、被害者本人の「紛失実話」をはじめ、荷物が紛失することを前提とした「自衛策」にはどのようなものがあるかを解説したサイトも存在。つまり、荷物の紛失は「よくある話」であり、まるで社会問題の様相を呈していた。なぜ、引っ越し業界はこうした状況を放置しているのだろう。

「自衛策」にはこんなものが

「引っ越し盗難」問題は、ちゃんと報道もされていた。なかでもネット上で“有名”な話は、2年前の2015年4月に兵庫県で発生した、高級ブランドバッグの抜き取り事件。テレビのローカルニュースでは、窃盗の疑いで逮捕された容疑者が実名で報じられていただけでなく、容疑者が勤務していた引っ越し業者名(アート引越センター)も併せて報じられていた。45歳の容疑者は、アルバイトの作業員だったのだという。記事はさまざまなサイトに“魚拓”を取られ、広まっていた。

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