
科学実験のプロセスで、当初の思惑とは違う発見をすることはよくあるもので、それを「セレンディピティ(Serendipity)」といいます。
「失敗」といってしまえばそれまでですが、それをただの失敗に終わらせずに別の価値ある発見につなげるということが、真の科学者の才能なのかもしれません。新たな発見にもつながらず、ただの失敗のまま実験を終えてしまうことのほうが、圧倒的に多いのでしょう。
そこには、偶然が支配する、人智を超えた何かがあるようにも思えます。もはや、「偶然」とは呼んではいけないのかもしれません。単なる偶然にしないのは、科学者の持つ、「真実を追求しようとする好奇心」「柔軟な発想」、そして一見ネガティブに思えるような出来事を失敗とはとらえない「楽天的な発想の転換」などが深く関わっているのでしょう。

私たちの身近なところでも、そのセレンディピティが生かされているものがあります。代表的なものが人工甘味料でしょう。ほとんどの人工甘味料は、まったく別の科学実験の最中に発見され、のちに製品化されています。
例えばサッカリンはコールタールに関する実験中に、科学者が自分の指についてしまった物質を舐めたことから、その甘さに気づいたのが発見のきっかけだといわれています。それは1878年のことです。
また、チクロという人工甘味料は、その危険性から今は使用されなくなりましたが、これは解熱剤の開発実験中に発見されました。
さらに、昨今もっとも多く使われている人工甘味料であるアスパルテームは、胃潰瘍の薬を開発中に、薬の包み紙を取ろうとして指を舐め、その甘さに気づいたことがきっかけとされています。
アスパルテームと並んでよく使用される人工甘味料のアセスルファムカリウムも、製薬会社で実験中に発見されました。これまたよく使用されているスクラロースにいたっては、殺虫剤の開発途上で発見されたといわれており、科学の実験室の中では何が起こるかわかりません。