
「それでリンゴがいくつ買えるのかい?」
“消えた年金”問題により、25年間も身寄りのない苦しい無年金生活を強いられていた85歳のおばあちゃんは、事務的なミスが発覚したことで、約3000万円の年金を新たに受給できると伝えられて、そう聞いた。金銭感覚がなくなってしまっていたとのことだ。
『ルポ 難民化する老人たち』(イースト新書/林美保子)
厚生労働省の施設等機関である国立社会保障・人口問題研究所によれば、2035年には総人口に占める65歳以上の高齢者の割合が33.4%となるという。となれば、高齢者問題は今以上に日本の大きな課題となる。
本書は、底をつく老後資金や孤立死、介護施設不足問題など高齢者と彼らを支える人々の悲しい実情を、多くの取材を通して伝えている。今回は、その著者で自身も62歳と老後に不安を抱えるフリーライターの林氏に、決して他人事ではないこの問題について話を聞いた。
高齢者貧困問題の要因は核家族化
――高齢者問題をテーマとした著書を取材、執筆するに至った経緯を教えてください。
林美保子氏(以下、林) 数年前に日刊ゲンダイで年金生活者を取り上げる連載を担当し、そこで高齢者が生きにくい世の中になっていると実感し、本書の企画を出すことにしました。私自身、この連載を担当するまでは、そこまで問題意識を持っていたわけではなく、むしろ私たちの世代は悠々自適とまではいかなくとも、公的年金が老後の生活を保障してくれると思っていました。ですが、実際はそれどこか、悲惨な生活を送っている高齢者が本当に多い。その実態を知ってもらいたかったのです。
――どういった人に読んでもらうことを意識しましたか?
林 当事者である中高年から高齢者はもちろん、若い人にも向けて執筆しました。実際にインターネットのレビューなどでは若い方から「身につまされる」「他人事じゃない」といった反響もいただいて、なかには「全編を通して暗くて悲惨な内容なので、気が滅入ってしまった」という声を頂戴することもありました。