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新見正則「医療の極論、常識、非常識」

死体の病理解剖、激減の真相

文=新見正則/医学博士、医師
死体の病理解剖、激減の真相の画像1「Thinkstock」より

 今日は病理解剖が30年前の7割に激減したというニュースで盛り上がっています。まず、“常識君”の解説です。

「病理解剖は死体解剖保存法に基づいて行われ、義務ではありません。医師が必要と考えれば家族の承諾を得て行われます。その数が1980年代は4万件近くあったものが、2015年には約1万1000件と、7割も激減したということです」

“非常識君”のコメントです。

「病理解剖の費用は数十万円ともいわれます。その費用は医療費とは認められず、病院の持ち出しになります。医療業界の経営が苦しいなか、直接の利益にならず、数十万円の持ち出しになる病理解剖が進んで行われるとは思えません」

“極論君”がコメントします。

「僕は家族の承諾が得られれば全員に病理解剖を行うべきと思っています。そのためには、当然に費用負担を国民の医療費で賄うべきです。行ってきた治療が正しかったのか、間違っていたのかは釈然としないことも多いと思います。また病理解剖をして初めて他の併存する病気が見つかったとか、実は生前に診断されていた病名は間違いであったなどが判明するかもしれません」

 非常識君が質問します。

「では病理解剖を行うことで、どれぐらいの例で新たな情報が得られているのですか。実はそんなデータの集積はないと思います。病理解剖を公費で行いたいのであれば、説得する材料が必要です。つまり、病理解剖をしてどんな新しいことが、どの程度の頻度でわかり、だから病理解剖が有益だという証拠です。その証拠なしに、医師を育てるために解剖は必要だといった論調を並べても、公費で病理解剖費を負担する根拠にはまったくなりません。今でも年間40兆円以上の医療費が必要とされています」

病理解剖を行う意味合い

 常識君の意見です。

「30年前と比べて医療は進歩しました。とくにCTスキャンやMRI、超音波検査など、体の中を調べる技術の進歩は飛躍的です。ですから、30年以上前はたくさんの情報が病理解剖から得られたのでしょうが、今ではどれだけの新しい情報が得られるかは不明です。そのあたりも、しっかり検証しないで、『病理解剖が減ったのは、病理解剖を行う医者が少ないから』とか『費用負担が重荷になっているから』と力説しても、説得力に欠けます」

新見正則/医学博士・医師

新見正則/医学博士・医師

1959年生まれ
1985年 慶應義塾大学医学部卒業
1985年~ 慶應義塾大学医学部外科
1993~1998年 英国オックスフォード大学医学部博士課程
1998年~ 帝京大学医学部外科に勤務

 幅広い知識を持つ臨床医で、移植免疫学のサイエンティスト、そしてセカンドオピニオンのパイオニアで、モダン・カンポウやメディカルヨガの啓蒙者、趣味はトライアスロン。著書多数。なお、診察希望者は帝京大学医学部付属病院または公益財団法人愛世会愛誠病院で受診してください。大学病院は紹介状が必要です。

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