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高橋篤史「経済禁忌録」

セクハラ創業者と対立で揺れる一部上場企業で、新たな重大トラブル発覚

文=高橋篤史/ジャーナリスト

 事の始まりは17年3月。取引先持株会が保有する約120万株のうち約37万株の持ち分を保有する守屋八潮建設は退会したい旨をJPホールディングスの取締役に連絡した。が、退会手続きはすぐには進まなかった。この頃、守屋八潮建設とJPホールディングスとの取引は打ち切られている。そうした間の6月に定時株主総会が開かれているが、守屋八潮建設は取引先持株会の議決権行使がどのように行われたか把握していない。

 その後、守屋八潮建設は取引先持株会の会員名簿とその持ち分、役員名簿の開示を会社側に求めた。7月25日になり、会社側から開示されたのは理事2人の名前だけで、理事会議事録はないとの回答だった。理事2人のうち1人は守屋八潮建設の代表取締役で、しかもその役職は理事長だったが、当人はすっかりそのことを失念していたという。

 臨時株主総会開催の請求がなされた後の10月10日、こんどは会社側から守屋八潮建設に対し連絡があった。理事長として次期理事の選任に関する通知を出してもらいたいので、退会手続きを一時延期してほしいとの内容だった。その際、会社側から通知の文書案が送られてきたが、結局、文書は完成することなく、会員に向け発出はされていない。

 その後、臨時株主総会の日程が目前に迫ってくるなか、守屋八潮建設は考えを改め、理事長として議決権行使を行いたいと会社側に通知した。すると、会社側からは意外な回答が返ってきた。退会手続きを延期してもらいたいとの言を翻し、すでに守屋八潮建設は取引先持株会の理事長でなく会員でもないとされたのである。結局、守屋八潮建設は臨時株主総会で持分に関わる議決権を行使することができなかった。

 これらについて会社側に事実確認を求めると、退会の申し入れがあった時期を8月下旬としている以外、大筋では守屋八潮建設の説明と矛盾しない回答が返ってきた。会社側は規約上、継続的取引関係がなくなった時点で持株分の資格を喪失し、自動的に退会されると主張。10月末に守屋八潮建設に対し退会に必要な書類を送付したものの、いまだ送り返されていないとし、このトラブル全般に関わる一義的な責任は理事や理事長の務めを果たしてこなかった守屋八潮建設側にあると主張する。

 ジェイ・ピー取引先持株会は08年7月に設立され、会社側の総務人事課が事務局を認めてきた。両者の主張を考慮した上で間違いなく言えるのは、取引先持株会の運営が極めて杜撰に行われ、事務局を務める会社側も会員から会費を徴収し続けながら改善を働きかけた形跡がないという呆れた実態である。理事長当人が理事であることを失念し、理事会が開かれてこなかったとなると、それまで株主総会における議決権行使はどのように決められ、行われてきたというのか。株主総会の勝敗ラインをめぐり僅差の攻防が続く今回の事態を鑑みると、取引先持株会が保有する約1.4%の議決権は重要な意味を持ち、適正なガバナンスの下で適切に行使されてしかるべきだ。

 会社側によると、17年6月の定時株主総会については持株会による有効な議決権行使が行われなかったものとして取り扱ったのだという。

持株会の議決権行使

 日本企業において取引先持株会は珍しいものではない。安定株主として期待できるため、会社側がこぞって設立してきたからだ。同じようなものに従業員持株会もある。平時は経営陣の意に沿って議決権を行使してくれるから、問題が起きることはない。悪く言えば、馴れ合いだ。しかし、お家騒動など大事が起きるや、その前提は通用しない。あくまで株主は経営陣とは別個の存在であり、だからこそ株主によるガバナンスが働くのである。取引先や従業員であってもそれは同じはずだ。仮に経営陣と一体であるなら、それは自己株に等しい。本質的には議決権行使から除外されてしかるべきだろう。

 お家騒動では時に持株会の議決権行使が全体の行方を左右することがある。すでに3年越しの内紛が続くロッテホールディングスはその一例だ。創業家の重光昭夫氏が実兄の宏之氏を追放したが、同社の資本関係は極めて捻れている。追放した側の昭夫氏が直接保有する株式は議決権ベースでも5%に満たない。対して宏之氏は資産管理会社を通じて30%余りを押さえている。

 にもかかわらず、今日、昭夫氏が宏之氏の株主提案を退け続け強固な支配権を確立しているのはなぜか。それは間接的な支配により過半数を確保しているからである。その中心が30%余りを保有する従業員持株会だ。同会は規約上、従業員から選出された理事5人により運営していくとされるが、理事の指名権は事実上、経営側が牛耳っている。そこで宏之氏側は従業員持株会の一般会員を切り崩して多数派を形成し、理事会を転覆しようと画策していた時期があった。

 株の所有者が経済的利益(=配当等)を得るものの本来の権利(=議決権行使)を別の主体によって縛られているという事態は好ましいはずがない。「会社は誰のものか」という根源的な議論とも関わる。

 日本の上場企業を見渡すと、取引先持株会が上位10位内の大株主を占めているケースは450社前後にも上る。チノー(取引先持株会の保有割合10.9%)や森永製菓(同6.3%)、日本製粉(同5.5%)の場合、筆頭株主の座を占めているほどだ。従業員持株会が上位株主に入っているケースは取引先持株会よりもっと多い。

 果たしてそれら運営は適切になされ、経営陣からの独立性は確保されているのか。コーポレート・ガバナンスの重要性が叫ばれる昨今、総点検されていい問題だ。
(文=高橋篤史/ジャーナリスト)

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