JTが公表しているデータから計算すると、プルーム・テック一服中のニコチン量は、紙巻たばこ一服中の約0.27パーセントと、きわめて小さな値になります【注4】。しかし、アイコスの場合と異なり、第三者による検証実験が行われた形跡がなく、専門サイトで検索しても、12月4日現在、学術論文を見いだすことができません。
通信社・ロイターによれば、JTは2018年上旬に全国販売を開始するとのことです。また来年中には400億円を投じて増産体制を組むことになっている、とも報じています【注5】。
一方、英国のたばこ企業ブリティッシュ・アメリカン・タバコの日本法人も、グローという名の非燃焼・加熱式たばこを、2016年12月に発売しました。たばこ葉を240℃で加熱するとされていて、ここまでに紹介した2つの製品の中間形のようですが、詳細は不明です。
実験場にされる日本
以上が現在までに明らかにされているファクトです。文中に記載した日付を見ておわかりのように、まさに現在進行形の出来事であり、紙巻たばこと同じくらい有害なのか、少しは害が低いのか、あるいはまったく無害なのか、現時点で判定を下すことはできそうにありません。
たばこの煙が肺がんの原因となることは、いまや万人の認めるところですが、最初の論文が1946年に発表されてから決着がつくまで、実に60年もの歳月を要しました。たばこ産業によるデータのねつ造や妨害などもあり、混乱をきわめた時期が長く続いたからです【注6】。
日本は、世界のたばこ産業から、新たな商品の実験場として利用されているようです。実際、非燃焼・加熱式たばこを吸い過ぎたことが原因で、好酸球性肺炎という重い病気を発症した日本人の事例が、被害者第1号として医学専門誌に報告されています。
米国のメディアには、「発がん物質が蒸気に含まれている」「もし発売が許可されるなら、たばこと同様の扱いにすべきだ」「たばこより安全だと主張しているが、ビルの10階から飛び降りるのは50階から飛び降りるより安全と言っているようなもの」などの批判が続々と寄せられています。
海外での懸念をよそに日本では、若者たちの間で急速に人気が高まっているようで、禁煙の輪を広げるどころか、むしろ喫煙者の層を広げてしまっていないのか、気になります。本稿が、日本での議論を深めるきっかけになれば幸いです。
(文=岡田正彦/新潟大学名誉教授)
【参考文献】
注1)Philip Morris International Inc. Latest clinical research confirms that IQOS reduces smoker exposure to select harmful chemicals as compared to cigarette smoke. Business Wire, March 27, 2017.
注2)Auer R, et al., Heat-not-burn tobacco cigarettes: smoke by any other name. JAMA Intern Med, published on line, May 22, 2017.
注3)Wan W, Big Tobacco’s new cigarette is sleek, smokeless — but is it any better for you? Washington Post, August 11, 2017.
注4)プルーム・テックに関する情報提供, 日本たばこ産業株式会社, インターネット, 2017年9月8日.
注5)FDA move on nicotine could boost Philip Morris iQOS smoking device. Reuters, July 28, 2017.
注6)Iida K, et al., Learning from Philip Morris: Japan Tobacco’s strategies regarding evidence of tobacco health harms as revealed in internal documents from the American tobacco industry. Lancet 363: 1820-1824, 2004.