
「東京・江東区内で男女4人が次々に刃物で切られ3人が心肺停止」
7日夜、ニュースの第一報で「また通り魔事件か」と思った人も多かったに違いない。しかし、その後の続報で事件のとんでもない概要が次第に明らかになってきた。
事件現場は江東区内の「深川の八幡様」として知られる富岡八幡宮周辺。殺害されたのは富岡八幡宮の宮司・富岡長子さん(58)。犯人は宮司の実弟である富岡茂永容疑者(56)と女で、茂永容疑者は女を刺し殺したあと自殺した。長子さんの運転手の男性(33)も女に右腕を切られて重症を負ったが命に別状はないという。凶器は刃渡り80cmと同45cmの日本刀とサバイバルナイフ2本で、計画的な犯行とみられる。
警視庁の調べによると、茂永容疑者は1990年代から父親の後を継いで宮司を務めていたが、毎晩銀座で飲み歩いたり、ラスベガスのカジノで豪遊するなど金遣いが荒く、女性関係の噂も絶えなかったという。神社本庁に納める“上納金”を使い込んでいたことも明らかになり、01年に宮司を解任された。その後は父親が再び宮司となり、長子さんが宮司に次ぐ禰宜(ねぎ)を務めていた。
近所の人の話では「子どもの頃から姉と弟は仲が良くなかった」という。茂永容疑者は宮司を解任されたことを根に持ち、06年、長子さん宛てに「必ず今年中に決着をつけてやる。覚悟しておけ」「積年の恨み。地獄へ送る」などと書いたはがきを送りつけ、脅迫容疑で逮捕、起訴され、罰金刑を受けている。
その後、10年に父親が退任すると、氏子たちで構成される責任役員会が、長子さんを宮司にするよう全国の神社を統括する神社本庁に具申したが、任命されないまま7年が経過した。その間、長子さんが代理宮司を務めていたが、神社本庁からさまざまな嫌がらせを受けていたと、長子さんはブログに綴っている。
長子さんは今年に入って任命しない理由を照会する文書を神社本庁に送ったが、未回答のまま文書が送り返されてきたことから、5月の責任役員会で神社本庁からの離脱を決議、長子さんが正式な宮司となった。なぜ、神社本庁は長子さんを宮司に任命しなかったのか。寺院関係者に話を聞いた。
カネと跡継ぎ問題
「仏教では寺の跡継ぎは世襲ではなく、弟子が住職を継ぐことになっています。しかし、天皇家と関係の深い神社の場合、後継者は代々世襲で決められてきました。実子がいなければ親戚筋から養子を迎えることもあります。神社本庁がなぜ任命しなかったのか。それは女性の宮司を認めたくないからでしょう。女性が天皇になることが認められていないのと同じで、女性が宮司になるのは問題だとみなして、神社本庁は7年間も認めなかったのです。弟の評判が悪かったのも原因でしょう。