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リニア談合捜査に入った特捜が、マイナンバー独占受注のIT大手5社を見逃すのは疑問

文=佃均/ITジャーナリスト
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リニア談合捜査に入った特捜が、マイナンバー独占受注のIT大手5社を見逃すのは疑問の画像1東京地方検察庁特別捜査部が設置されている中央合同庁舎第6号館(「Wikipedia」より/F.Adler)

 JR東海が進めているリニア中央新幹線の建設工事をめぐって、大林組、大成建設、鹿島、清水建設の大手建設4社が談合で受注調整をしたとして、東京地検特捜部と公正取引委員会が捜査に入った。2015年8月以後に発注された22件の工事のうち、4社がそれぞれ代表となっている4つのジョイント・ベンチャー(JV:共同企業体)が15件を受注したが、金額がほぼ均等になるよう、トンネルや非常口、駅など案件ごとに割り振った疑いだ。

法改正で国費3兆円の貸付け

 受注予定のJVを示すと見られるO(大林)、T(大成)、K(鹿島)、S(清水)のイニシャルが付いた資料も見つかっているとも報じられており、独占禁止法違反の疑いは逃れられないようだ。リニアの開業目標時期は、東京-名古屋間(285.6km)が2027年、名古屋-大阪間(152.4km)が37年。超電導磁気技術による浮上式で最高時速は505km、首都圏は大深度、南アルプスをトンネルで貫くなど難工事が予想されるものの、完成すれば東京-名古屋間が40分、東京-大阪間が67分で結ばれるという。

 当初の計画では、大阪までの開業は45年とされていた。ところが、16年8月の閣議決定「未来への投資を実現する経済対策」で、「全線開業を最大8年前倒しする」ことになった。東京-名古屋-大阪という日本の大動脈を短時間で結ぶ経済効果ばかりでなく、「いずれ間違いなく」と予測される東南海地震へのバックアップという意味もある。

 これを受けて同年9月、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構法が改正され、16~17年度にわたりJR東海に対して計3兆円の公的資金が貸し付けられた。国費が占める割合は全線の総工費約9兆円の3分の1だが、当面の東京-名古屋間の工費5兆5235億円でいえば約6割。事業主体はJR東海とはいえ、実質的な国家プロジェクトであり、公共事業に準じるといっていい。

民民間の随意契約ではないか

 発端は大林組が公正取引委員会に談合を自主申告したことだった。独占禁止法に違反したことを公正取引委員会に自主申告すると、企業に課される課徴金が減免される。「リーニエンシー」と呼ばれる制度がそれだが、大林組が申告に踏み切っていなかったら疑惑は最後まで露呈しなかっただろう。

 しかし別のルートで談合の実態が明らかになっていたとしても、民民間の取引なので、通常では地検特捜部が乗り出す案件ではない。これまでの報道を総合すると、貸付けとはいえ3兆円もの国費が入っている以上、公共事業に準じるという判断があった、ということになる。

 4つのJVが受注した15件は大深度地下の駅舎や鉄道、最長25kmに達する南アルプス横断トンネルなど、難工事が予想される案件だ。受注すれば長期に及ぶ人員と機資材を手配し、安全と品質の管理を遂行し、下請けに支払う巨額の資金を担保しなければならない。体力、技術、経験値を総合的に判断すれば、スーパーゼネコンと呼ばれる4社を外せるわけがない

競争入札を無意味化する手法

 そこで思い出すのは、14年3月に行われたマイナンバー・システムの入札だ。その中核となる「情報提供ネットワークシステム」の設計・開発業者を一般競争入札で公募したのだが、応札したのはNTTコミュニケーションズを代表とし、NTTデータ、NEC、日立製作所、富士通が参加するコンソーシアムだけだった。国の大規模システムを受注できる国内ITベンダー5社、リニア談合にならえば「スーパーITゼネコン」が手を組んだので、競争入札は実質的に意味を失った。

「情報提供ネットワークシステム」の落札金額は114億円で、今回のリニア談合と比べれば微々たる金額だ。しかしマイナンバー関連システムに投入された国費は総額3200億円といわれており、全国1700の市町村が負担した既存システムの改造費を合わせれば5000億円を上回る。

 建造物は躯体の構造にかかわらない限り、一定の技術力があれば第三者が改造や増築を受注できる。しかしITシステムは、中核システムの設計情報を握った者が周辺システムの開発や改造でも優位に立つことができる。向こう10年、20年の“利権”を確保する共通の利益のために、スーパーITゼネコン5社が手を握ったと見られてもおかしくはない。

 おまけにマイナンバー・システムは稼働直後からトラブルが連続し、マイナポータルの本格稼働は遅れ、システム連携も遅々として進んでいない。クラウド、仮想化、ブロックチェーンといった21世紀型のアーキテクチャーで、サーバーの負荷を分散する設計を採用しなかったのは「失敗は許されない」という守りの意識ゆえであるにしても、おかげで今世紀最大規模のITプロジェクトは、時代遅れの無様な姿を世界に見せつけることになるかもしれない。

4社の言い分にも一分の理?

 ひるがえって今回のリニア談合疑惑はどうかといえば、まず税金を投入する公共調達ではない。第2に、スーパーゼネコン4社が使い物にならない建造物をつくるとも思えない。むしろ、海外に打って出るきっかけをつかむために、「世界に冠たる」建造物をつくり上げるに違いない。

 法律がある以上、法律に従わなければならない。それは言うまでもないことだが、発想を変えれば、受注額が法外に高い、完成後も工事事業者の独占を許す仕様になっている、といった問題がなければ、4社の言い分に一分の理が認められるかもしれない。

 実際、マイナンバー連合5社と同じように、スーパーゼネコン4社が前もって役割分担を決め、連合で応札していたらどうだったか。それでも特捜は動いたか。野次馬的な邪推でいえば、特捜が動いたのは国会が閉会したからに違いない。モリ・カケ・スパに続いて、「これ以上はダメですよ」と安倍政権に釘を刺したということだろうか。
(文=佃均/ITジャーナリスト)

佃均/ITジャーナリスト

佃均/ITジャーナリスト

1951年9月、神奈川県生まれ。IT業界紙取締役編集長を経て、2004年からIT記者会代表理事として『IT記者会Report』を発行している。主な著作は『ルポ電子自治体構築』(自治日報社)、『日本IT書紀』(ナレイ出版局)、IT/ソフト産業の調査分析として『IT取引の多重取引き構造に関する実態調査』、『中堅企業向けERPにおける SaaS/SOAビジネス市場動向調査』、『地域の中小サービス事業者におけ るIT利活用状況及びサービス事業者に特有の課題の把握に関する調査』など。

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