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江川紹子の「事件ウオッチ」第93回

サンフランシスコに続き、マニラでも慰安婦像設置 私たちはいかに前に進むべきか…江川紹子の提言

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 読売社説はさらにこう続く。

「問題なのは、日本政府の対応が後手に回ったことだ。(中略)外務省は、今回の反省から、インドネシアやマレーシアなど東南アジア諸国での情報収集の強化に乗り出した。各国政府に歴史問題に関する日本の対応を説明し、理解を求める取り組みも加速させる。着実に実行してもらいたい。

 慰安婦問題に絡めて、日本の名誉を不当に貶めたり、周辺国との関係を傷つけたりする動きは、到底看過できない。新たな像の設置を食い止めるための一層の外交努力が欠かせない」

 フィリピン・マニラに設置された像は、目隠しをし、頭にベールをかぶって地元の伝統的な衣装を着た女性の姿で、産経新聞によれば、碑文には「日本占領下の1942~45年に虐待を受けたフィリピン人女性犠牲者の記憶」とタガログ語で書かれている。産経新聞でさえ「表現は穏当だ。『慰安婦』の言葉もない」と書いており、「慰安婦問題に絡めて、日本の名誉を不当に貶め」ようとするものでないことは明らかだろう。

 フィリピンでは日本軍の規律の乱れから、現地の女性に対するレイプが多発した。日本の植民地として行政機構も整備され、慰安婦集めも主として業者に任せていた朝鮮と違って、フィリピンではかなり乱暴なことが行われた。元慰安婦のマリア・ロサ・ヘンソンさん(故人)は著書『ある日本軍「慰安婦」の回想』(岩波書店)の中で、日本軍検問所の兵士に強制的に連行され、複数の日本兵にレイプされ、挙げ句に慰安所に入れられた過酷な経験を記している。

 このような体験をした人たちの、自分の被害を忘れないでほしいという思いを形にすることを、他国、とりわけその苦難を与えた国が四の五の言うべきではない。そういう行為は、むしろ反感を招くだけだろう。経済支援を背景に、「申し入れ」(菅官房長官)と称して圧力をかけるような品のないまねもしないでほしい。

真に求められる“広報戦略”とは

 ではどうしたらいいのか。

 大事なのは次の3点だと思う。

(1)「慰安婦問題などない」と叫んだり、元慰安婦を罵倒したりせず、元慰安婦に対しては敬意を払う

(2)この問題で、日本は謝罪していること、アジア女性基金などで事実上の賠償に努めてきたことを世界に伝える

(3)日本は加害の事実を含めて歴史をきちんと伝え、性被害の問題に積極的に取り組んでいる姿勢を示す

 とりあえず、今の日本にできそうなのは(1)と(2)だ。

 日本がこの問題で謝罪してきたことは、海外ではあまり知られていないようだ。それに加えて最近の慰安婦問題を否定する動きが加わると、日本は謝罪どころか事実すら否定しようとしているかのように見られてしまう。それは、元慰安婦を傷つけるだけでなく、日本の広報戦略としても非常に拙い。

 謝罪は、1992年の宮澤喜一首相が韓国訪問時に「最近、いわゆる従軍慰安婦の問題が取り上げられていますが、私は、このようなことは実に心の痛むことであり、誠に申し訳なく思っております」と発言したのをはじめ、1993年のいわゆる河野談話、1996年の橋本龍太郎首相の「私はこの問題ほど女性の名誉と尊厳を傷つけた 問題はないと思います。そして、心からおわびと反省の言葉を申し上げたいと思います」という発言など、歴代政権が行ってきた。

 アジア女性基金では、償い金に、橋本氏から小泉純一郎氏までの3代の首相によるお詫びの手紙が添えられた。フィリピンでこの償いを受け取った元慰安婦の一人は、記者会見に出席してこう言った。

「今日皆様の前に出たのは、総理の謝罪を得られたからです。感謝しています」

 15年の日韓合意でも「安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する」という言葉が入った。

 残念だったのは、これを安倍首相自身の口から言わず、岸田外相(当時)に読ませたことだ。安倍首相が、内外のメディアを集め、テレビカメラの前で、この謝罪を表明すべきだった。そして、各国語の字幕をつけてネット視聴できるようにし、併せて歴代首脳の謝罪についての解説もつければよかった。そうすれば、日本がどれだけ謝罪を重ねてきたのか、国際社会にも伝わっただろう。

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