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介護業界、38万人不足で存続困難に…「人身売買的」外国人実習制度を積極活用へ

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 ベトナム労働法が専門の神戸大学大学院准教授の斉藤善久氏によると、強引な解釈が成り立ってしまうのだ。斉藤氏はベトナムに1年間滞在して、現地の送出し機関で日本語講師に従事しながら、技能実習制度の実態を調査した経験を持つ。

「ベトナム国内に介護施設は10カ所程度しかないので、介護業務の経験者はほとんどいない。自宅でおじいちゃん、おばあちゃんの世話をしたのなら『居宅等において、高齢者又は障害者の日常生活の世話』に該当してしまう。こんなデタラメな話はあるだろうか?」

 職歴要件では虚偽申告も横行してきたという。斉藤氏は「酪農経験」の一例を挙げる。

 ベトナムの実習生は約96%が団体監理型で送り出されているが、送出し機関には募集職種を知らせずに若者を集めて、日本語の勉強をさせる例が少なくない。実習実施者からの求人が入ると急遽、職歴をつくり上げるのだが、例えば酪農の求人に対しては、実習生たちをバスツアーで酪農場に連れて行き、牧場をバックに本人を撮影して「酪農経験」の証拠に仕立て上げる。

 ベトナムではこんな事例が多いという。さらに、日本政府が排除をめざすブローカーの介在も厄介だ。

「実習生がブローカーに仲介料を支払って、送出し機関を紹介してもらうことが慣例になっている。そのために借金をするのだが、借金の多くは日本円にして100万円程度で、20~40万円が送出し機関への保証料、残りが手数料になっている。実習生は借金があるために日本に来るのではなく、来日するために借金している」(同)

 この慣例は、実習生が送出し機関から仕事を“買う”という構造を生み出した。一方、送出し機関にとって、日本側の監理団体は仕事の発注者であり、監理団体関係者が現地を訪問すると、送出し機関から過剰接待を受けることは広く知られている。接待費用の原資を辿れば、実習生がブローカー経由で支払った保証金に行き着く。監理団体には送出し機関に過剰接待を禁じている例もあるが、日本側の監理団体も実習実施者も、いわば当事者として、構造的に実習生からの搾取に関与させられてしまっている。 
 
 斉藤氏は、次のように強調する。

「監理団体や受入れ企業がいくらコンプライアンスに気をつけたところで、この構造のなかで収益する限り、ブラックな搾取構造とは無関係でいられない。送出し国側および日本側の民間団体や個人が、複合的に外国人技能実習生とその家族から寄ってたかってお金と労働力をむしり取る構造ができあがってしまっている。このような状況の根源のひとつが“技能移転を通じた国際貢献”という茶番である。嘘を規制で塗り固めた歪みの生み出すリスクの大半が、外国人技能実習生本人とその家族に押し付けられている」

日本で働く経済的メリットの低下


 介護事業者からも同様の見解が聞こえてくる。さる10月、都内で開かれたシンポジウムで、ベトナムで介護職実習生の研修事業を始めた介護事業者は「ベトナムからの実習生受け入れには闇が付きものである。この現実をよくよく認識しないと、こんなはずではなかったと後悔しかねない」と警鐘を鳴らした。こうした暗部が残されている一方で、もうひとつの懸念材料がある。はたして介護職の実習生はどれだけ来日するのか。介護人材の不足を補えるだけの来日人数を期待できるのだろうか。

 踏まえておきたいのは、国際労働力移動が専門の首都大学東京教授の丹野清人氏が提示する見解である。丹野氏は筆者のインタビューに対して、日本で働く経済的メリットの低下を指摘した

「国内移動と国境を越える移動では、全然意味が違う。賃金格差が2倍なら、国内で移動することを選択するだろう。それ以上開いて初めて、国境を越えて、生活環境を変えてでも移動してもいいかなと思うようになる」

 この原理から見通せば、いつまでも、日本が出稼ぎ先であり続けられるとは限らない。

「日本とアジア各国の経済格差が縮まるにつれて、日本で働くメリットは薄れてくるだろう。日本国内の賃金格差は、東京と沖縄を比較すると2倍の格差があるが、2020年頃には中国の賃金水準が沖縄と同水準になる勢いだ。その途端に来日数が減り始めるだろう」(同)

介護職に固有の問題


 さらに介護職に固有の問題がハードルになっている。それは日本語能力要件である。実習生の日本語能力は、国際交流基金と日本国際教育支援協会が主催する「日本語能力試験」で認定されている。認定ランクはN1(幅広い場面で使われる日本語を理解することができる)からN5(基本的な日本語をある程度理解することができる)の5ランクに分類され、実習生に対しては入国時(1年目)に「N5」が要件に課せられている。

 ところが、対人サービス業務である介護職にはワンランク高い要件が適用され、入国時の要件は「N4に合格」「N4と同等以上の能力」。このランクに達するには入国前の日本語教育に相応の時間を伴うのが通例で、N5に達するまでの研修期間は一般に約3カ月だが、N4には約8カ月を要するという。

 この研修期間が送出し機関にとってハードルになっているのだ。先述のシンポジウムで、医療・介護事業の専門コンサルタントは、介護職の採算性を指摘した。

「他の職種なら3カ月の日本語研修で送り出せるので、1年間に4回転できる。しかし、介護職の日本語研修は8カ月が必要なので1.5回転しかできない。生徒数を増やして回転数をカバーしようとしても、宿泊施設の関係から介護職だけ生徒を増やすわけにはいかず、介護職を扱うと採算が悪化してしまう」

 当初は介護職の送出しに積極的な機関も多かったが、採算性を理由に、最近は介護職を対象から外したり、様子見をするケースが増えているという。

 しかし、それでも多くの介護事業者にとって、新技能実習制度の活用はアテにしたい手段ではないのか。すでに監理団体に100人規模の求人を申し込むなど、制度活用に積極的な介護事業者もいる。「『うちは法律を守ってやっている。送出し側でどんな目に遭ってきたかは、関知しません』という言い逃れはもはや通じない」(斉藤氏)という状況で、制度活用を考える介護事業者に問われるのは、まずは監理団体の選定だ。

 実習生雇用の成否は雇用体制だけでなく、監理団体の力量にも左右される。受入れ実績、介護事業に精通したスタッフの有無、実習生のサポート体制などをどう見極めるか。さらに健全化の取り組みも必須要件である。

 ある監理団体では、実習生全員に来日までに支払った費用の明細を報告させ、ブローカーや役人に対する裏金の支払いが判明したら、送出し国の当該機関に通報して再発防止を求めている。通報の結果、裏金を受け取った役人が解雇された例もあるというが、そのぐらい踏み込んだ取り組みが求められるのが制度の実情である。
(文=小野貴史/経済ジャーナリスト)

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