
2017年9月以降、上場企業の検査不正が相次いで発覚した。
世界的に知られる日本の製造業大手によるもので、「メイド・イン・ジャパン」の信用を傷つけた。いずれもガバナンス(企業統治)の欠如を示すが、なかには国の制度問題が浮かび上がったケースもある。事件の特徴と背景を探った。

まず、最初に表面化した日産自動車の無資格者による完成検査不正を取り上げてみよう。同様の不正は、のちにSUBARU(スバル)でも明るみに出る。
完成検査とは、新車の完成車の出荷前に計測機器を使ってブレーキ性能やライトの明るさ、排ガス濃度などを調べ、国の「保安基準」に適合しているかどうか、安全性を点検する最終工程を指す。完成検査は自動車の「型式指定」を申請するメーカーに対し国土交通省が法令で義務付け、国内向けの車すべてに適用される一方で、輸出車は適用外で検査対象から外される。
日産とスバルは、内規に反し完成検査要員として会社に任命されていない「無資格者」が検査したことを認め、大規模リコール(無料の回収・修理)に踏み切った。日産は国内5工場、スバルは国内2工場で無資格の従業員が完成検査に関与していた。
両社は、現場で一定の技能や知識を習得した経験者が完成検査をしていた、として「安全性は確保されている」と主張する。両社とも、現時点で不正検査がらみのクレームは発生していない。無資格者に検査させる慣行は、双方とも30年以上前からあったとされており、現場に不正の認識はなかった。社内資格を取る筆記試験で事前に解答を教えたり、研修の一環として検査に関与させたりしていた。
スバルの場合、実務訓練後に筆記試験の合格を経て完成検査員の資格を与える仕組みだが、筆記試験の受験前からハンコを預け、検査を任せていた。現場の法令軽視は明らかだ。
しかし、事件の裏側であぶり出されてきたのは、国が型式指定申請者(メーカー)に義務付けた「自動車型式指定規則」の過剰規制だ。同規則では、完成検査の実施要領や検査用機械器具の管理要領の提出を求めているだけでない。「検査主任技術者の氏名及び経歴」の提出まで求めている。
このように異様なくらいに事細かく検査資格を求めた同規則が制定されたのは、戦後間もない昭和26年だ。当時と今では、自動車製造の技術レベルや検査方法はまるで異なる。
今では現場は、ブレーキ系統や排ガス系統など工程ごとに安全性をチェックして次の組立工程に送り出す。完成検査工程では、IT化された検査機器で機械的にチェックする。
自由化が進んでいる米国では、メーカーの「自己認証」で新車の安全性を確認し、排ガス検査のみ米環境保護庁(EPA)が独自に抜き取りで行う。輸出車が完成検査の対象外なのは、「輸出先の国の法令が適用されるため」(国土交通省)だが、米欧など海外では有資格者による完成検査を必要としない。
同規則は日本だけにしかない、“古き時代の名残り”といってよい。この際、業界(日本自動車工業会)はこの種の規制撤廃を政府に要求してはどうか。