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梅原淳「たかが鉄道、されど鉄道」

小田急線、一大ダイヤ改正に数々の疑問…混雑解消&速度アップは限定的?改悪の駅も?

文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト
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小田急線、一大ダイヤ改正に数々の疑問…混雑解消&速度アップは限定的?改悪の駅も?の画像3小田急電鉄70000形の展望室

 新型の特急車両の導入費用を減らすため、展望室を設置しないという選択肢も小田急電鉄にはあった。いっぽうで同社は「箱根観光輸送の強化」を掲げ、70000形による旅客運輸収入の増加に期待を寄せるから、展望室を設けないと営業面で得策ではないと判断したらしい。ちなみに、沿線の人たち数人に70000形の印象を聞いたところ、「かっこいい」「早く乗りたい」といった答えが返ってきた。全国にさまざまな観光列車がデビューして魅力を競うなか、展望室というキラーコンテンツをもつ小田急電鉄はそれだけでも集客上有利であると言える。

スピードアップ

 線路や施設への多額の投資は特急列車にもよい影響を及ぼす。増発が実施されることとなり、現在平日には下り58本、上り50本の計108本が運転されているなか、ダイヤ改正後は下りは1本増の59本、上りは4本増の54本と計113本となる。土休日は下り66本、上り52本が運転されているなか、上下とも3本増で下りは69本、上りは55本の計124本となるという。

 さらに、現状で1時間22分を要する新宿~箱根湯本間は最短で1時間13分と9分短縮される。スピードアップは利用者にとってありがたいだけでなく、小田急電鉄にとってもメリットは大きい。車両の運用効率が上がり、車両の数をあまり増やさなくても列車を増発できるからだ。

 一例として朝6時から夜23時までの17時間に、1編成の特急車両が新宿~箱根湯本間を何回運転できるか試算してみよう。

 新宿、箱根湯本両駅での折り返し時間を20分と仮定すると、所要時間が1時間13分ならば11回、1時間22分ならば10回と1回余分に運転できる。わずか1回と侮るなかれ。70000形を除いて小田急電鉄には16編成の特急車両が在籍しており、これら16編成がいま挙げた行程で新宿~箱根湯本間を往復すると仮定すると、スピードアップ前と後とでの列車の本数の差は16本だ。したがって、1編成分が節約可能となり、70000形の価格であれば約21億5000万円を削減できる。

ダイヤ改正の内容への疑問

 さて、ダイヤ改正の内容については首をかしげたくなる点も多い。筆者が感じた疑問点について小田急電鉄CSR・広報部の回答を得たので紹介しよう。

 筆者がまず不思議に感じたのは、午前8時前後の1時間に小田原線下北沢駅に到着する36本(特急列車1本を除く)という新宿方面の列車の本数の少なさである。実を言うと、JR旅客会社や他の大手民鉄の通勤路線の複々線と比べて、ダイヤ改正後の小田原線を走る列車の本数は少ない。国土交通省の16年度の統計で朝のラッシュ時1時間当たりの列車の本数を見ると、JR東日本中央線の53本が全鉄道事業者中で、大手民鉄では東武鉄道伊勢崎線の40本がそれぞれ最多である。

 せっかくの複々線が完成するのであるから、小田急電鉄も朝のラッシュ時に列車を45本程度は走らせて、小池百合子東京都知事の言う「混雑ゼロ」を実現してほしいとは利用者の切なる願いであろう。筆者の試算では、16年度と利用者数が同じままで45本に増発すれば、世田谷代田駅から下北沢駅までの間の混雑率は122パーセントへと下がる。にもかかわらず、実現しない理由はいくつか挙げられる。

 ひとつは代々木上原~和泉多摩川間の複々線化は達成されても、小田原線の新宿~代々木上原間が複線のままで残るというもの。しかも、この区間は今後、線路が増やされる予定もない。複々線が計画された際、代々木上原駅では相互直通運転を実施している千代田線が接続しているので、利用者は新宿方面と千代田線方面とに分かれると予測されたからである。

 現在、朝のラッシュ時1時間に運転されている27本の通勤列車中、代々木上原駅から新宿駅までの間を走る列車の本数は21本で、残り6本は代々木上原駅から千代田線に乗り入れていく。ダイヤ改正後は24本(特急列車1本を含めると25本)で、千代田線に直通する列車は12本だ。

 特急列車1本を含めて1時間当たり25本、平均して2分24秒おきと、状況は1本の線路で運転できる列車の本数の上限に近い。現状で27本、平均して2分13秒おきで運転しているから、あと2本は増やせるのではと思われるが、新宿駅の折り返し作業がネックとなってしまう。2層構造となっている新宿駅には地上に特急列車や急行列車など通過主体の列車用に3本、地下に各駅停車の列車用に2本と、計5本の線路が確保されてはいる。しかし、通勤列車のうち、通過主体の列車は10両編成、各駅停車の列車は8両編成と分かれており、しかも両者をそれぞれ専用の線路に取り込まなくてはならないため、新宿駅の手前での停止といったロスが生じてしまうからだ。

 小田急電鉄によれば、代々木八幡駅のホームの延伸工事が完成してすべての通勤列車を10両編成で運転できるようになれば、新宿駅での折り返し作業は効率化され、増発は可能になるとのことだ。増加となる列車の本数はいまのところ不明ながら、工事の完成に期待したい。

増発は限定的

 さて、代々木八幡駅のホームの延伸工事が完成したからといっても、複線では1時間に45本の列車を運転することは不可能だ。そこで、新宿方面には特急列車1本を含めて25本を走らせるのであれば、千代田線方面の列車を20本運転すれば合わせて45本の列車の運転は実現する。ダイヤ改正で朝のラッシュ時1時間に千代田線方面に乗り入れる列車の本数は12本と6本増えるものの、さらなる増発が望ましい。

 小田急電鉄によると、乗り入れ先の東京地下鉄、そして千代田線と綾瀬駅を介して相互直通運転を実施するJR東日本との間で必要な車両の手配がつかないといった理由から、今回のダイヤ改正では6本の増発にとどめられたという。今後は利用状況を見ながら、列車の本数を増やすかどうかを検討するとのことだ。

 筆者はこの「利用状況」こそ、千代田線方面の列車の増発が控えめとなった理由だと考える。国土交通省による12年度の調査では、代々木上原駅から新宿方面、千代田線方面に向かう1日当たりの人数は新宿方面が67パーセントの約24万5000人、千代田線方面が33パーセントの約12万1000人であった。ダイヤ改正後の24本(特急列車を含まず)対12本という比率は、まさに12年度の利用状況に即した本数となっている。

 逆に言うと、新宿方面2、千代田線方面1という比率を崩して千代田線方面の列車を増発したところで混雑の緩和にはあまり役立たない。なぜなら、代々木上原駅で千代田線方面の列車から新宿方面の列車へと乗り換える利用者が増えてかえって混乱が生じるだけだからだ。となると新宿~代々木上原間では列車の増発は必要で、今後はこの区間の複々線化か、そうでなければ現状ではいずれも待避線をもたない途中の南新宿、参宮橋、代々木八幡の各駅のすべてまたはいずれかに線路の増設が求められる。

駅によって偏り

 もうひとつの疑問は、朝のラッシュ時を中心として駅ごとに発着する列車の行き先や種類に偏りが見られるという点だ。なかでも極端な例として挙げたいのは、多摩線の小田急多摩センター駅、そして小田原線の鶴川駅である。

 平日の朝7時台に小田急多摩センター駅を出発する新百合ケ丘、新宿方面の列車は現状では11本だ。内訳は、各駅停車の列車が新百合ケ丘行き、新宿行きとも5本ずつ、残る1本は急行列車の千代田線方面、JR東日本常磐線の我孫子行きである。ダイヤ改正後は1本増発されて12本となり、うち6本は各駅停車の列車で新百合ケ丘行き、残る6本は通勤急行列車の新宿行きだ。

 一見してわかるのは、千代田線方面の列車が姿を消したこと、そして新宿行きの通勤急行列車の大盤振る舞いであろう。小田急電鉄によれば、どちらも利用状況を鑑みた結果とのこと。並行する京王電鉄から旅客を獲得して、旅客運輸収入を増やしたいという意思も働いたに違いない。

 鶴川駅では、現状で平日の朝7時台に8本の列車が新宿方面に向かう。内訳は各駅停車の列車が4本でいずれも新宿行き、残る4本は皆準急列車であり、3本は新宿行き、1本は千代田線方面の綾瀬行きである。

 ダイヤ改正後は4本増発されて12本となり、この点だけならば喜ばしいが、内訳は首をかしげざるを得ない。6本が各駅停車の列車の新宿行き、残る6本が準急列車の千代田線方面行き(行先は未発表)であるからだ。

 鶴川駅で乗り降りする利用者の半数の目的地が千代田線の沿線だとは、さすがに小田急電鉄も認識していないようで、やはり過半数の利用者は新宿方面を目指すらしい。にもかかわらず、新宿まで現状では準急列車で40分で行けるところ、ダイヤ改正後は各駅停車の列車で56分程度を要するという改悪はなぜ生じたのであろうか。

 小田急電鉄によると、列車の種類のわかりやすさや速達性の向上、混雑の平準化を図るため、ダイヤ改正後は新宿行きの準急列車の運転を取りやめるそうだ。新宿方面の列車は各駅停車ばかりにはなるものの、途中の新百合ケ丘駅や登戸駅で後続の快速急行列車に乗り換えれば、新宿までの所要時間は短くなるので、全体としては不便になる度合いは防ぐことができるのだという。

 試しに登戸駅で快速急行列車に乗り換えた場合の所要時間を調べてみると、最速37分で結ばれるというので小田急電鉄の言い分も間違ってはいない。しかし、いままでは直通列車が存在したにもかかわらず、ダイヤ改正後は乗り換えを強制するのはいかがなものであろうか。

 小田急電鉄が公表した16年度の鶴川駅の1日当たりの乗降者数は6万9224人であった。この数値は、鶴川駅には停車することのない急行列車などが停車する向ヶ丘遊園駅の6万6684人を上回り、経堂駅の7万6363人にも迫る。結局は鶴川駅にも急行列車などを停車させれば、小田急電鉄もこのような苦しい弁明をせずに済むのにとさらに質問したら、次のような回答を得た。こちらは誤解のないように全文を引用させていただこう。

「また、優等列車(筆者注:急行列車などの列車を指す)の停車については各駅の乗降客数の大小で決まるわけではなく、前述した内容(同:ダイヤ改正後に鶴川駅を出発する列車の状況)と同様に速達性の向上や、全線の利用状況等、さまざまな条件を鑑みて決定していますので、ご理解をお願いしたい」

 小田急電鉄の新しいダイヤについて、筆者は述べたい点があるし、沿線の皆さんもいろいろと考えがあることであろう。とはいえ、小田急電鉄もこのダイヤが完全なものとは考えていないようで、実施後に改善の必要があれば、できる限り早く反映させたいという。ダイヤ改正後の小田急電鉄の列車がどのような利用状況となり、同社が掲げた目標を達成できる見込みは立つのか。その答えは間もなく出る。
(文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)

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