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午堂登紀雄「Drivin’ Your Life」

急増する「生活苦老人」へ転落しないために、これだけは知っておくべき情報リスト

文=午堂登紀雄/米国公認会計士、エデュビジョン代表取締役

筋肉質の家計に

 次に、収入が増えても減っても支出額が変わらない固定費の比率を下げておくことです。支出の多くを変動費化できれば、困ったときにはガマンして乗り切ることができるからです。

 たとえば通信費など生涯かかるものは、総額はかなり大きくなります。仮に携帯料金に月1万円かかっていれば、30年で360万円にもなります。そこで早いタイミングでキャリアメールから足を洗い、フリーメールなどで独自アドレスを使う方法も考えられます。これならキャリアに縛られず、ナンバーポータブルによってその時々で最も安い通信キャリアを選べるからです。

 NHK受信料や新聞購読料は高齢者が支えていると言われていますが、老後を迎えたら解約してしまうのも手です。テレビや新聞がなくても世の中の動きはわかるし、今の現役世代はネットで知りたいことは知ることができるので、もはやなくても困らないでしょう。両方やめれば月7,500円以上は浮きます。私ももう、10年以上前にやめています。

戸建てなら省エネ化を

 もし一戸建てに住んでいるなら、太陽光パネルを屋根につけてオール電化仕様にする方法もあります。10kW未満の発電量の場合は「余剰売電」といって、発電した電気のなかから家で使った残りを売ることができます。自宅の電気代が削減できるうえ、収入にもなる期間が10年続きます。10年後以降は売電はできなくなりますが、自宅の電気代は以後もパネルの寿命が尽きるまで削減効果が続きます。

 10年の契約期間が終わるタイミングで家庭用蓄電池を導入すれば、昼間に太陽光でつくった電気を蓄電池に貯め、夜にそれを使うことで電気料金の支払いがなくなり、公共料金は水道代だけですむかもしれません。

 仮に電気代の平均が月5,000円だとすると年間6万円。蓄電池の耐用年数が15年だとすると、そのときの蓄電池の値段が90万円よりも低ければ、導入メリットがあります。

 持ち家でも賃貸でも、照明はすべてLEDに替えるのがおすすめです。私も以前、賃貸に住んでいるときに交換しましたが、電気代が半分くらいになりました。また、もし古い冷蔵庫やエアコンを使っている場合も、最新型に交換すると電気代がぐっと下がる可能性があります。初期投資はかかっても10~15年と使うものですから、より快適になるうえ、世帯人数の多い家庭なら回収できる可能性はあるでしょう。

 わが家は4人家族ですが、引っ越しにあたってこれらを買い替えたところ、夫婦2人だけのときと電気代はほとんど変わっていません。

健康に投資する

 老後にかかるお金の主軸は、「衣食住」から、「医食住」へと変遷します。老後は現役時代ほど衣料品は買わないと思いますが、医療費の負担が増すからです。医療費の自己負担割合は現行制度下では70歳未満が3割、70歳から74歳までが2割、75歳からが1割となっていますが(現役並み所得者はいずれも3割負担)、生涯医療費の半分は70歳以降に発生するといわれるなど、相当な負担となる可能性があります。また、医療費財政の悪化で、将来制度変更があるかもしれません。

 元気なうちはなかなかピンと来ないものですが、医療費に限らず、知的活動も肉体的活動も含め、あらゆる活動のベースが「健康」ですから、病気にならない生活習慣づくりをしておくことです。

 といってもシンプルで、バランスの良い食事を腹八分でとる、睡眠はしっかりとる、適度な運動、そしてストレスマネジメントです。特にストレスは、血管を収縮させて血流を阻害し末端を冷やし、免疫細胞の活動を抑えて免疫力を低下させ、あらゆる疾病の元になるので、ストレスと上手につきあえるようにしておくこと。また、栄養過多も万病のもとですから、食べ過ぎないことも肝要です。

 老化や病気を招く重大な要因を整理すると、大きく次の5つとなります。

(1)体の冷え
体温が下がると免疫細胞や各種酵素の働きが鈍り、抵抗力が低下する。体温を高めるには筋肉量のアップによる毛細血管の増加が有効なので、適度な運動が必要。

(2)食べ過ぎ
食べ過ぎは内臓に負担をかけ、血糖値が高い状態が続くと細胞が糖化し劣化する。

(3)睡眠不足
細胞の再生や皮膚のターンオーバーなどは睡眠中に行われる。睡眠不足や睡眠の質の低下は認知症の大きな要因になる。

(4)ストレス
副交感神経の働きを抑え、免疫機能が低下する。

(5)便秘
免疫細胞の6割は腸内にあるといわれ、便秘は腸内細菌叢、いわゆる腸内フローラのバランスを崩す。

 多くの健康法は「食べるもの」にフォーカスしていますが、1日3食ジャンクフードなど極端にバランスの悪い食事でなければ、それほど健康には影響はないことがわかっています。体の仕組みを知れば知るほど、サプリメントなどに頼る前に、まずはこれらを整える生活習慣にすることが大切だということがわかります。

親の財産の確認

 もし自分が50代以上であれば、そろそろ相続のタイミングがやってくる人もいるでしょう。そこで親が健在なうちに親の財産を確認しておくことです。もし自分の親の家、あるいは配偶者の家を相続できるのなら、定年退職後は自分の家を売ってそちらに住む、あるいは逆もできるなど、選択肢は広がります。

 また、隠れ借金や売るに売れない不動産がある場合など、うっかり相続すると自分の足を引っ張ります。そうしたものは早めに処分するとか金融資産は生前贈与し、最後は相続放棄で負の遺産を一掃するのもひとつの方法です。ここで「縁起でもない」というのは現実逃避です。なぜなら相続は確実にやってくるので、親が死んだり認知症になってからでは、むしろトラブルの原因にもなりかねないからです。

仕事の確保

 定年退職後は完全に無収入(100%年金生活で貯蓄が減る一方)という状況を避け、老後もできる仕事の確保の手がかりをつかんでおくことです。たとえばハローワークなどに相談に行って、自分のキャリアの延長線上で65歳以降でも雇用されるのはどういう人材かを聞いてみるのも手です。そこで、そういう人材を目指して自己投資プランを立て、今から自分の知識やスキル、経験を高めておく。もちろんAI(人工知能)やロボット技術の進化などによって未来の職業ニーズは流動的ですが、ある程度はわかっているのに無策というのはあまりに無謀です。

 また、経営計画、事業企画、人事制度設計・採用戦略、Web/システム投資、マーケティング、営業開拓、海外進出、生産革新等の経験があれば、経営顧問という道もあります。専門知識と経験をコンサルタント的に伝授する経営顧問であれば、65歳以上になってもニーズはあるからです。

 そのためには、機会があれば自ら手を挙げて経験させてもらい、これらを人に教えられる域にまで昇華させておくことです。サービス残業になったとしても、「専門知識と実務経験」という巨額の財産を築いておけば、仮に顧問職を得られなくても、独立起業や個人でコンサルタントとして活動することも可能です。

人脈の維持

 定年が迫っている人は、同窓会などにはなるべく顔を出して、旧交を温めておく方法も考えられます。定年退職後は職がないという場合、かつての友人知人から「ヒマならウチに来る?」というお誘いがないとは限らないからです。65歳を過ぎれば、おそらく民間の就職あっせん業者やハローワーク経由などでの就職はなかなか難しいでしょう。そんなときにモノをいうのが横のつながりによる縁故採用ですから、同窓生だけでなく、昔の取引先など今まで出会った人との交流を復活させておくのもよいかもしれません。

起業を視野に副業に取り組む

 あるいは定年退職後に起業することを見据えて副業に取り組んでおく方法もあります。最初はあまりお金をかけず、自分の得意領域で試行錯誤して稼ぐ能力を獲得しておくのです。会社員と並行してであれば、多少の失敗が許されますから、定年退職までにはある程度のノウハウを積み上げることが可能でしょう。

 ただし、退職金をつぎ込んで蕎麦屋を開業とか、未経験の分野のフランチャイズに加盟、みたいなことには慎重さが必要です。よほど確信がある分野でない限り、初期投資は限りなく低く、仕入れなどの経費、家賃などの固定費も少ないほうが、仮に失敗してもまた再起できるからです。

 一方、デザインやウェブ、ライティングなどのスキルがあれば、初期投資や固定費はほとんどかからないうえ、年齢制限もない生涯フリーランスとして仕事を得ることができます。

 経験がなくても興味があるなら、専門学校などに通って訓練して身に付け、細々とでもよいので会社員並行で副業の経験を積んでおくことです。雇用保険に加入している人であれば、保険からそれらスクール費用の一部補助が出ます。こうしたスキルがあれば、フリーランス以外にも、自前サイトによるアフィリエイトや電子書籍などウェブ関連で収入を得ることも可能です。

 雇われるにしても独立するにしても、そうやって働くことで生活に緊張感があれば、病気になるリスクも低減されることがわかっていますので、老後の医療費負担を減らすことにつながります。それに何より「社会との接点がある」「誰かから必要とされている」「人の役に立っている」「自分でお金を稼いでいる」という自尊心は、充実した人生を送る上でも重要なことではないでしょうか。

 だから私の意見としては、いたずらに貯蓄に走って守りに入るより、現役時代から老後でも通用するスキルやビジネスを育てることへの投資(経験も含めて)にウエイトを置いたほうがよいと思っています。いくら貯金したとしても、収入がなければ取り崩すだけで、長生きは逆に恐怖となってしまいかねません。しかし収入があれば、貯金が少なくてもなんとかなるからです。

働かなくても得られる副収入源の確保

 とはいえ、やはりいずれは思うように働けなくなる日が来ます。そこで、自分の労働力に依存しない副収入源をつくっておくことです。たとえば、不動産を買って人に貸し家賃収入を得る、株式投資で配当収入を得る、投資信託で分配金収入を得る、債券や外貨などで金利収入を得る、といった方法は有名で、さまざまな書籍も出ているので、「そんなの危険」などと先入観で判断しないで、いろいろ調べてみましょう。

 資産運用といえば投資信託を思い浮かべる人もいると思いますが、私個人としては、投資信託はインデックスにしても毎月分配型にしても、あまり信用していません。たとえば毎月分配型の投信は、ほとんどがタコ足配当です。基準価額を下げずに安定した分配金を出し続けている投信は、この4年ほど実際に経験してきた結果、私の知る限りほぼ皆無です(もっとも、すでに老後を迎えた人が計画的にお金を使えるという意味では役に立つといえるかもしれません)。

 そしてインデックス投信ですが、確かに将来景気が良くインフレにでもなれば価格は上昇するでしょう。実際に日経平均が8,000円台の民主党政権の頃からコツコツ投資してきた人は、確かに今は増えています。しかし老後を迎え、投信を解約して現金化しなければならないタイミングが、たまたま大恐慌だったら、増えているどころか減っている可能性もある。もちろん反対に、お金が必要になったときが好景気なら、お金が増えているでしょう。

 というふうに、将来はわからない。景気も自分でコントロールできない。だからあまりそこに依存するのはリスクがある、というのが私の考えです。

 ただ、あくまで個人的な見解ですが、米国株のインデックス(ダウやナスダック)は手堅いのではないかと考えています。移民や出生数で安定した人口増加に加え、アマゾン、グーグル、アップルなどハイテク関連では米国企業の一人勝ちでAIの分野でも独走が予想されるなど、一時的な暴落や恐慌といった波はあっても、米国の景気は拡大していくと考えられるからです。

 今年のクリスマス商戦では消費者はネット通販に軸足を移し、従来のような店頭がごったがえすという状況は鳴りを潜めたそうですが、クリスマスにあれほどの買い物をするのは日本ではあまり考えられないほど個人消費も底堅いです。

プチ移住

 NINJA状態が避けられず、あまり時間も策も打てないという場合、NINJAでも生きられる環境をつくることです。たとえばUターンやIターンによって田舎暮らしをする、いわゆるプチ移住。

 特に過疎化など人口減少に悩む地方自治体のなかには、住居や仕事の斡旋、あるいは家賃補助など、手厚い待遇を用意しているところもあります。そうした田舎では生活コストは非常に低く、さらに近隣住民で農作物を融通しあう習慣があるなど、年金でも最低限なんとかやっていくことは可能ではないでしょうか。

 生活には車が必要で、運転できない年齢になったときに困ると思うかもしれませんが、おそらくあと10年くらいで自動運転車が普及し、そうした心配はなくなると思われます。また、地方でもドローンによる宅配の実現が予想されるため、買い物難民という状況も避けられそうです。

 仕事そのものは少なく、高齢者では事務職など内勤の仕事はほぼ皆無のことが多く、メインは農業など体を動かす仕事になるかもしれません。しかし土いじりもやってみると案外楽しいもので、黙々と作業して汗を流し、実った作物を収穫するというのは、都会に疲れた人には新鮮のようです。ただし配偶者の反対にあう可能性もあるので価値観のすり合わせは必要ですし、地方は病院も減っているので、少なくとも病院のある町でないと後期高齢者になったときが不安です。

 また、ヨソ者を受け入れない排他的な地域もあるので事前調査が必要です。町内会に入れてもらえずゴミも出せないにもかかわらず、地域行事には強制参加で手伝わされるなど理不尽な目に遭っているという話もちらほら聞こえてきます。

 あるいは、タイやフィリピンといった物価の安い新興国に移住している人もいます。たとえば私がしばらく滞在したフィリピンのセブでは床屋のカットが200円でしたし、ジプニーという乗り合いバスは1回10~30円くらいです。言葉の問題や習慣の違いを気にする人もいますが、住めば都とはよくいったもので、なんとかなるものです。

 特に東南アジアはどこも親日国ですし、首都や大都市であれば日本人コミュニティもあるので、住みにくいことはないと思います。私も子供が生まれる前は、夫婦で何度もマレーシア、シンガポール、タイに行っていましたが、医療なども含め特段の問題はありませんでした。

 海外を視野に入れた場合、ビザの制度はよく変更されるので、タイミングを見計らって永住権などの長期滞在ビザを取得しておくことです。また、新興国は物価の上昇が顕著なので、為替レートの変動と合わせ、未来永劫大丈夫とは限らない点には注意が必要です。

 また、日本人を騙すのは現地の日本人と言われるなど、詐欺や事件などにも要注意です。

 以上、いろいろな選択肢をご紹介しましたが、もちろんこれらがすべてではありません。

 自分のライフスタイルや嗜好に応じて戦略的に方法論を考え準備し、「選べる」状態をつくっておくことが、老後の不安を和らげる一助になります。なぜなら、選択肢がひとつしかなければ、もはや我慢するしかありません。たとえば、そこに住むしかない、そこで働くしかない、それしか買えない。しかし選択肢が複数あれば、そのなかから自分の好みに応じて選ぶことができるからです。
(文=午堂登紀雄/米国公認会計士、エデュビジョン代表取締役)

午堂登紀雄/米国公認会計士、エデュビジョン代表取締役

午堂登紀雄/米国公認会計士、エデュビジョン代表取締役

 1971年、岡山県瀬戸内市牛窓町生まれ。岡山県立岡山城東高等学校(第1期生)、中央大学経済学部国際経済学科卒。米国公認会計士。
 東京都内の会計事務所、コンビニエンスストアのミニストップ本部を経て、世界的な戦略系経営コンサルティングファームであるアーサー・D・リトルで経営コンサルタントとして勤務。
 2006年、不動産仲介を手掛ける株式会社プレミアム・インベストメント&パートナーズを設立。2008年、ビジネスパーソンを対象に、「話す」声をつくるためのボイストレーニングスクール「ビジヴォ」を秋葉原に開校。2015年に株式会社エデュビジョンとして法人化。不動産コンサルティングや教育関連事業などを手掛けつつ、個人投資家、ビジネス書作家、講演家としても活動している。

Twitter:@tokiogodo

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