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江川紹子の「事件ウオッチ」第95回

【オウム裁判終結】事件の教訓を次代へ引く継ぐためにーー弟子12人の死刑執行について江川紹子の提言

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オウム事件の記憶も忘れられつつある(写真は事件直後の教団施設外観)

 オウム真理教による一連の凶悪事件を裁く裁判で、最後の被告人となった高橋克也被告の上告が棄却された。これで、まもなく無期懲役刑が確定する。オウムに対する強制捜査が始まって23年。192人が起訴され死刑が13人、無期懲役が高橋を含めて6人、そして無罪が2人などの結果を残して、オウム裁判はようやく終わる。

被害者が加害者に--カルトの本当の怖さ

 高橋被告は、地下鉄サリン事件で実行犯を車で送迎したほか、猛毒のVXを使った殺人・同未遂事件、目黒公証役場事務長だった假谷清さんを拉致し死なせた事件、そして都庁小包爆弾事件に関わったとして起訴され、すべて有罪と認定された。地下鉄サリン事件の他の運転役4人は、いずれも無期懲役が確定しており、高橋被告の量刑もそれにならったものといえるだろう。

 17年間の逃亡生活の末に2012年に逮捕された3人のうち、2人は教団からの離脱を明言し、麻原彰晃こと松本智津夫への信仰心も否定したのに対し、高橋被告は逮捕時に教祖の本をコインロッカーに隠しており、法廷でも松本を「グル(宗教指導者)」と呼んだ。

 事件に対する反省が深まった様子もない。一審で、夫が地下鉄サリン事件で亡くなった高橋シズヱさんから「人生で後悔していることはありませんか」と問われ、「怒りを持ったこと」「人の困ったことを助けてあげられなかったこと」などと答え、シズエさんが思わず「事件に関与したことは後悔になりませんか」と詰問する場面もあった。

 このような高橋被告の姿に、一度心に染みついたカルトの価値観から離脱することの困難さを、改めて思い知らされた。長期間教団と離れて社会の中で生活していても、彼のように他人と心を許して交わることない日々を送っていたのでは、むしろ心の中で教祖への執着は強まる一方だったのではないか。

 今後は、長く刑務所で生活することになる。他の受刑者や刑務官らと交わる集団生活の中で、オウムに入る前の人間らしい心を取り戻し、自分の行為に対する反省を深めてほしいと願う。刑務所が、そうした役割をよく認識して対応することを期待したい。

 収監場所について、法務省はオウム関係者がいる刑務所を避けようとするだろうが、私は、同じ地下鉄サリン事件の運転役だった杉本繁郎受刑囚のように、反省を深めている元信者と同じ所に入れて話ができるようにしたほうが、高橋被告に自分の罪と向かい合わせるうえではいいと思う。

 これで終結する一連のオウム裁判で、結局、教祖の松本は何も語らなかった。地下鉄サリン事件の謀議の場面や、サリン生成の原材料の調達過程について、関係者の証言が食い違うなど、明らかにならなかった事柄もある。

 その点、教団ナンバー2の村井秀夫幹部が、警察の教団への強制捜査の最中に暴漢に殺害されてしまったことは、返す返すも残念だった。教祖にもっとも近い存在で、教団の武装化や凶悪犯罪に関わっていた彼が生きて逮捕されれば、もっといろんな事実が明らかになった可能性がある。

 それでも、各事件における役割分担やそれぞれの信者の行為、ヨガ団体として発足したオウムがサリンなどの兵器を生産し、大量無差別殺人を行う犯罪集団と化していった経緯など、裁判ではさまざまな事柄が明らかになった。また、少なからぬ被告人が、裁判で生い立ちから教団に吸い寄せられ、心を奪われた経緯、事件に関わる時の心理状態などを率直に語り、人がカルトに支配されていくプロセスも見えてきた。

 信者たちは、教団に入る前は、ごく普通の、あるいはむしろ生き方や社会のあり方についてまじめに考える若者だった。それが、自分の生きる道を模索する中でオウムに出会い、引き寄せられ、巻き込まれた。彼らの思考は変容し、自身で物事の是非を考えることを放棄し、教祖の言うがままに動き、事件に関わった。当初は人生や人間関係をオウムによって台無しにされた被害者だった彼らが、他人の人生を破壊する加害者となっていく。このカルトの怖さが、裁判によって浮き彫りになっていった。

 残念なのは、そうした問題が、一過性の報道で終わってしまい、若い世代に引き継がれていないことだ。地下鉄サリン事件が起きた年に就学した人は、今年29歳になる。それより若い世代の多くは、オウム事件の生の記憶はあまりないだろうし、ましてや被害者から加害者に転じるカルトの問題性については十分伝わっていない。地下鉄サリン事件が起きたことは知識として知っていても、「変な連中が寄り集まって、とんでもないことをやらかした」という印象しかないのではないか。

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