ビジネスジャーナル > 企業ニュース > 仮想通貨、重大なリスク露呈  > 2ページ目
NEW
金子智朗「会計士による会計的でないビジネス教室」

【コインチェック流出】仮想通貨、重大なリスク露呈…徹底した自己責任問われる

文=金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表

たかが制度がビジネスを邪魔するようなことがあってはならない

 もう1つの気になるニュースは、決済代行サービスなどを手掛けるメタップスが昨年ICOを実施した際に、その会計処理をめぐって監査法人と協議が難航し、1月15日の決算発表が深夜になってしまったというニュースだ。

 ICOとはイニシャル・コイン・オファリングのことで、上場を意味するIPO(イニシャル・パブリック・オファリング)になぞらえて使われるようになった言葉だ。ICOでは、企業が「トークン」と呼ぶデジタル権利証を発行し、発行企業の事業に賛同する投資家はビットコインなど流通性の高い仮想通貨で代金を支払う。したがって、IPOになぞらえているものの、公開市場に仮想通貨を流通させるわけではない。仮想通貨によるプライベートな資金調達手段だ。メタップスは、韓国子会社がICOによってビットコインと並ぶメジャーな仮想通貨であるイーサリアムを当時のレート換算で約10億円調達した。

 問題なのは、ICOの会計上の位置付けが定まっていないことだ。株式発行ではないので、資金調達額は資本金に計上するわけにはいかない。かといって、返済義務があるわけでもないので負債ともいいがたい。ならば、トークンを販売したことによる売上なのではないかという解釈も成り立つが、そうなると調達額は課税対象になってしまう。取得した仮想通貨の時価をどのように反映させるかも、決まった定めがない。

 会計基準策定主体である企業会計基準委員会(ASBJ)が昨年12月にやっと公開草案をまとめたが、まだ公開草案であり、その内容もまだまだ実務に追い付いていない。特に、ICOについては法律上の位置づけも明確でないため、会計ルールの策定は見送られている。そのため、会計処理は個々の企業や監査法人に任されているのが現状だ。訴訟リスクなどを避けたい監査法人としてはできればかかわりたくないため、一部では監査対象企業にICOを実施しないように求めているとの報道もある。中国や韓国のようにICOの全面禁止に踏み切った国もある。

 しかし一方で、アメリカなどではスタートアップ企業がICOをうまく活用して、単なる資金調達だけでなく、新たなビジネスモデルまで生み出している。つい先日もシリコンバレーに視察に行ったが、そのダイナミズムたるや凄まじい。

 そのダイナミズムを見るにつけ、思うことがある。たかが制度が、そのようなビジネスのダイナミズムを邪魔するようなことがあってはならないのだ。新しい経済取引は常に先行し、制度が後追いになるのは常である。制度にかかわる者は、制度ばかりに関心を持つのではなく、いかにしてビジネスに役立つ存在になれるかを常に考えたいものである。
(文=金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表)

金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表

金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表

1965年神奈川県生まれ。東京大学工学部卒業。東京大学大学院工学系研究科修士課程卒業。卒業後、日本航空(株)において情報システムの企画・開発に従事。在職中の1996年に公認会計士第2次試験合格。同年プライスウォーターハウスコンサルタント(株)入社。2000年公認会計士登録し、独立。2003税理士登録。2006年ブライトワイズコンサルティング合同会社(www.brightwise.jp)設立、代表社員就任(現任)。
ブライトワイズコンサルティング

Twitter:@TomKaneko

【コインチェック流出】仮想通貨、重大なリスク露呈…徹底した自己責任問われるのページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!