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江川紹子の「事件ウオッチ」第96回

【リニア談合】で再び問われる捜査手法…任意捜査でも取り調べの可視化を

文=江川紹子/ジャーナリスト

 村木さんが無罪となり、大阪地検特捜部主任検事による証拠改ざんが明るみに出た後、法務大臣の諮問で「検察の在り方検討会議」がつくられ、私(江川)も委員のひとりとなった。私は、同会議における議論の中で、任意の取り調べにおいても録音を残しておくことが必要だと訴え、被疑者・参考人が自らのICレコーダー等で録音することを妨げてはいけないし、検察側も録音を残しておくことが望ましいと述べた。

 今の東京地検特捜部長である森本宏氏は、その時に事務局の一員として、検察の問題点やその対策についての私たちの議論を聞いていたはずだ。

 録音がなされていれば、取り調べが適正に行われたかどうか後でチェックでき、それが無理な取り調べを抑制する。事実の解明にも役立つ。過去には、小沢一郎衆院議員の元秘書石川知裕氏がひそかに行った録音で、取り調べには実在しないやりとりが捜査報告書に記載されていることがわかった事例もある。

 後から、「言った」「言わない」の虚しい議論になったり、取り調べのやり方をめぐって問題にならないよう、今回のリニア談合疑惑のように争いのある事件は、任意聴取の段階で音声記録を残しておくべきだろう。少なくとも、捜査の対象者が録音しようとするのを妨害してはいけない。

検察取材と報道について“再検討”の成果を

 本件でもうひとつ気になるのは、マスメディアの報道ぶりだ。リニア建設で違法な談合が行われた容疑で特捜検察が捜査を行うことは大きなニュースであり、それを競って報じるのはよくわかる。ただ、検察のストーリーに立って検察情報をいち早く伝えるだけでなく、その捜査のありようを監視することもメディアの役割のはずだ。

 ところが、現実はどうか。

 新聞各紙は、検察の捜索について大きく伝えたが、弁護人の抗議とその直後にあった3度目の捜索についての報道は、対応が分かれた。抗議と3度目の捜索の両方を、2段以上の見出しを立てて報じた全国紙は、毎日、日経、産経。ところが、1月18日に社会面準トップの扱いで「清水、談合認める方針」との検察情報を報じた朝日は、抗議と3度目の捜索については、第3社会面で活字の小さな短信扱いだった。読売は、抗議も3度目の捜索も、どちらも報じていない。NHKも抗議直後に行われた3度目の捜索を伝えなかった。

 報道機関の最も大切な役割が権力の監視であることは、言を俟(ま)たない。そのためには、リアルタイムで事実をしっかり記録し、伝えることだ。村木さんの事件も含む過去の冤罪事件で、当初の捜査情報を鵜呑みにした報道の反省もあるのではないか。

 朝日新聞は、村木さんに無罪判決が出た後の紙面審議会で、編集担当が次のように述べている。

「今回の事件で、検察の信頼が揺らぎ、検察の権力性も改めて問題になり、あり方まで問われている。検察取材と報道について、再検討のきっかけとしたい」(2010年12月21日付紙面より)

「再検討」の成果が、そろそろ紙面に現れるよう期待したい。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

【追記】
 5日午前に本稿を出稿後、読売新聞は2月6日付朝刊第2社会面に、「リニア談合 地検大成を連日捜索/会社側『揺さぶりだ』」の3段見出しで、大成側の抗議と検察の捜索状況に関する記事を掲載した。それによると、抗議書提出後の3度目の捜索に入った際、検事は激高した様子で「代表役員を全員集めろ」などと迫ったという。5日も捜索は続いた。大成側の反発を伝えるとともに、社員寮から新たにリニア工事関連資料も見つかっているとし、組織的な隠蔽工作の可能性を疑う特捜部の見方も報じている。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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