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貴乃花・特番ですら触れない「白鵬の八百長疑惑報道」…テレビと新聞は封殺

文=深笛義也/ライター
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貴乃花・特番ですら触れない「白鵬の八百長疑惑報道」…テレビと新聞は封殺の画像1横綱・白鵬(写真:日刊スポーツ/アフロ)

「相撲界では日常茶飯事のように、毎場所半分以上の取り組みが八百長で土俵を賑わせている。それを放送しているNHKのスタッフは、当然相撲界の『八百長』の実態を知っているはずだ。NHKが仮に『相撲はそんなに真剣なものではない。日本の国技としての様式と形を楽しむもので、勝敗に目くじらを立て、問題にするようなことではない』こういう了見をもっているならともかく、そうではないのに公共の電波を使って、場所中には夜のスポーツニュースの枠で相撲協会の親方などをゲストに呼び、その日の取り組みをブラウン管を通じて真剣に勝ったの負けたのを論じているのはいかがなものか。相撲の担当記者たちもしかりだ。協会側になんらかの形で脅しをかけられているのか、相撲界で起こっているモメゴトの真実を書こうとしない。これが今の日本の『マスコミ』といわれている集団の実態に思えてならない」

 1996年に発刊された元・大鳴門親方が著した『八百長~相撲協会一刀両断』(鹿砦社)に記されている言葉だ。同書は「週刊ポスト」(小学館)での連載をまとめたもの。これを側面で支えていたのが、北の富士の後援会の元・副会長だった橋本成一郎氏。同書の出版に伴い日本外国特派員協会での講演も予定されていたが、その直前の4月14日、2人とも愛知県の藤田保健衛生大学病院で、レジオネラ菌による重症肺炎で死亡した。同じ日に同じ病気で死亡に至った謎については、今に至るも明らかになっていない。

 20年以上経った今も、元・大鳴門親方の語った相撲界の姿は変わっていないのではないか。

 7日、テレビ朝日系で『独占緊急特報!! 貴乃花親方すべてを語る』が放送された。その内容は、最も肝心な真実を避けて通る、タイトルにそぐわない内容だった。

 元横綱・日馬富士による貴ノ岩への暴行に至る経緯については、「週刊新潮」(新潮社)、「週刊文春」(文芸春秋)が貴乃花親方から伝えられた内容として報じている。記事によれば、貴ノ岩に白鵬のマネージャーからの電話があったのが、昨年1月20日。「どうせ翌日の星の話だろう」と直感した貴ノ岩は電話に出なかった。「星の話」というのは、いうまでもなく八百長のことだ。翌日、貴ノ岩は白鵬に勝ち、以来「俺はガチンコで横綱白鵬に勝った」と吹聴するようになり、白鵬もそれを耳にすることになった。モンゴル力士は、八百長のことを「ナイラ」と言い、東京・錦糸町の「カラオケバー・ウランバートル」などで飲むと、「俺はナイラはやらない」と貴ノ岩は公言しており、それも白鵬の耳に入っていた。

 秋巡業中の昨年10月25日、恩師である鳥取城北高校相撲部の監督から誘われて飲み会に行くと、白鵬と日馬富士がいた。白鵬が貴ノ岩に説教を始めた。当初、「恩師が来ているのだから他の人も呼んだらどうか」などと言われ、貴ノ岩はスマホで何人かの人を誘った。白鵬の説教の最中に、その返事が次々とやってくる。それでスマホを操作していたら、「説教の最中になにスマホを触っているのだ」ということで怒った日馬富士が、最初は平手、途中からカラオケのリモコンで貴ノ岩を殴るという暴行事件に発展した。

「注射」

 あらかじめ勝敗の決まっている勝負を、かつて相撲の世界では「出来山」と呼んだ。公に八百長が指摘されたのは1963年。作家の石原慎太郎がスポーツ紙への手記で書いたのだ。大相撲における八百長には歴史があると言っていい。

 八百長のことを相撲界ではいつからか「注射」と言うようになった。元・大鳴門親方が語った八百長全盛期の時代、ガチンコ力士に対しては、「あいつに声をかけても断られるだけだ」と諦めるか、時間をかけて搦め手で“注射”をせざるを得ないように追い込んでいったことが書かれている。

 ガチンコで勝負することを誇りにしている力士に対して、そのことをとらえて鉄拳制裁を加えた今回の暴行事件は、大相撲始まって以来の不祥事と言っていいだろう。だがテレビや新聞は、前段にあった八百長の部分には触れずにいるために、確かにそれ自体も問題だが、偶発的な暴行事件と多くの人々にはとらえられている。

 大相撲での八百長問題が大々的に表面化したのは、2011年。国会でも取り上げられ、菅直人内閣総理大臣は、2月3日の衆議院予算委員会で「八百長があるとしたら、重大な国民への背信行為だ」と語った。この時、東京都知事になっていた石原慎太郎は、2月4日の定例会見で「相撲はそういうもの。昔から当たり前のこととしてあった」「日本の文化、伝統を踏まえた日本の文化の神髄である国技だというのは、ちゃんちゃらおかしい」と言い放った。

 かねてからの大相撲での八百長を「週刊ポスト」だけではなく「週刊現代」(講談社)も指摘していたが、日本相撲協会は一貫してこれを否定していた。2011年、春場所が中止に追い込まれ、相撲協会が対策に乗り出したのは、携帯電話に残されたメールという動かぬ証拠があったからだ。ただこの時も相撲協会は八百長とは言わずに、「故意による無気力相撲」という表現を使った。

「週刊新潮」や「週刊文春」の報じた八百長疑惑に、相撲協会は抗議もしていない。「週刊新潮」(2月8日号)には、白鵬のマネージャー龍皇への取材内容が書かれている。虚偽を書かれたなら怒るはずの龍皇は「まあ、どうでもいいんじゃない」と、とぼけたという。

テレビというメディアの限界

 7日の放送で、貴乃花親方は八百長の問題には一切触れなかった。番組の中盤で、相撲とは何かを問われて、貴乃花親方は答える。

「やっぱり力士が元気よく、土俵に上がって、思い切り力のぶつかり合いができて、そしてそこでお客さんに喜んでいただく。それがこれからの永続的に目指す大相撲ではないかなと思います」

 ナレーターが、貴乃花は現役時代、真剣勝負で戦い抜いてきたと語る。

 2020年東京オリンピック・パラリンピックに向け、解体された国立競技場に掲げられていた、相撲の神様、野見宿禰(のみのすくね)の肖像画が映される。ナレーターが解説する。

「野見宿禰は弥生時代の頃、当麻蹴速(たいまのけはや)と初めて相撲を取ったと言われる、日本書紀に登場する人物。勝ったのは野見宿禰で、お互いに足を上げて蹴り合い、長い戦いの末、当麻蹴速はこの取り組みで命を落としてしまいました」

 これを受けて、貴乃花親方は語る。

「もともとの相撲というのが、どちらか息絶えるまでやる厳しいものである」

 貴乃花親方が目指しているのが、八百長を排したガチンコ相撲であることを、極めて遠回しに伝えているわけだ。やはりテレビというメディアの限界を感じざるを得ない。週刊誌報道などを知らなければ、一般的な相撲感を語っているとしか受け取れないだろう。そうしたテレビの限界のなかで、野見宿禰まで持ち出して真剣勝負を強調したのは、番組としてはがんばったほうだと評価すべきか。

 1月29日の相撲協会の理事候補選挙で敗れたことについて、貴乃花親方は「悔いはない」と振り返った。貴乃花親方が理事を解任されたのは、事件当時、当時巡業部長でありながら協会への報告を怠ったなどの理由。解任決定後の会見で相撲協会評議会の池坊保子議長は、貴乃花親方から「わかりました」と了承したとの回答があったと発表した。だがこれについて、「事実ではないです。『はい』としか言っていません」と貴乃花親方は否定した。

 警察に被害届を提出した時に、相撲協会に直接報告しなかった理由については、こう語った。

「警察の方が『親方どうしますか。協会への連絡はどうしますか』と。私は『ここに来たからにはお任せします。協会には警察から連絡を入れていただけますか』とお願いして帰ってきた次第です」

 そのようなことを踏まえて、「到底、その降格処分というのも、個人的に認めるべきではない」と語った。降格処分を認めないという意思表示のための理事候補選挙への立候補であり、その結果については意に介していないのだろう。

 番組内で新たに明らかにされたこととしては、九州場所中に八角理事長らから被害届の取り下げを打診されたことを、貴乃花親方は認めた。また、相撲協会の危機管理委員会の発表が、貴ノ岩の証言と異なるため、これまでに20通を超える反論文書を提出していたことが明かされた。相撲協会に対して「気持ちは戦います」と、貴乃花親方は明言した。

 放送から一夜明けた8日、相撲協会広報部は、同番組の放送に際して必要な申請書類が提出されず、無許可のまま放送されたと怒りをあらわにした。この日、両国国技館で行われた再発防止検討委員会の会見に、テレビ朝日は出入りが禁止された。

 戦いの火蓋は切られた、と見ていいのだろうか。
(文=深笛義也/ライター)

深笛義也/ライター

深笛義也/ライター

1959年東京生まれ。横浜市内で育つ。10代後半から20代後半まで、現地に居住するなどして、成田空港反対闘争を支援。30代からライターになる。ノンフィクションも多数執筆している。

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