再発防止の壁
医療行為がむしろ患者の死亡率を高めてしまっているわけですが、その背景には2つの問題があります。
ひとつは、医療ビジネスが過熱するあまり、論文のデータが捏造されたり、正しい情報が意図的に捻じ曲げられて医師に伝えられたりしていることです。これがまかり通る理由としてワシントン・ポスト紙は、「たとえば飛行機で旅をするには、キャビンアテンダントからマニュアルに従った注意を受け、粛々と離陸の準備をするだけでよく、乗客にとって難しいことは何もない。しかし病院では一人ひとりに異なる医療が行われるため、患者から見て何が正しいのか判断できないから」と説明しています。
もうひとつの背景は、単純なミスによる死亡事故が後を絶たないことです。不幸にして飛行機事故が起こった場合は、刑事訴追をしないという免責をパイロットに与えた上で事実を証言してもらい、事故の原因を解明し、世間に公表することが慣例となっています。そのことが再発の防止にも役立つわけですが、医療の場合は訴訟に発展してしまうことが多く、医師も病院もなかなか真実を語ることができません。そのため実態がよくつかめず、また再発防止にもつながってこなかったのです。
どこの国でも、公式な死亡統計は医師が書いた「死亡診断書」に記載された病名を集計したものとなっていますが、本文で紹介したような一連の出来事は、病名とみなされないまま見過ごされてきました。医療を行う側にも受ける側にも、いま、意識の改革が求められています。
(文=岡田正彦/新潟大学名誉教授)
●参考文献
【注1】 Cha AE, Researchers: medical errors now third leading cause of death in United States. The Washington Post, May 3, 2016.
【注2】 Makary MA, et al., Medical errors – the third leading cause of death in the US. BMJ 353: i2139, 2016.
【注3】 Starfield B, Is US health really the best in the world? JAMA 284: 483-485, 2000.
【注4】 Greger M, Medical care: the third leading cause of death. NutritionFact.org Nov 10, 2016.