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小池都知事、「花粉症ゼロ」に起死回生賭ける…飛散元の多摩スギ、伐採進まぬ事情

文=小川裕夫/フリーランスライター

 多摩山林のスギは、戦後間もない頃に住宅建材が不足したことで植林された。しかし、外国から輸入される安価な木材に押され、林業は衰退。後継者不足なども後押しして、多摩の山林は管理が行き届かなくなった。

 本来、山林は行政や森林組合などによって適正に管理されなければならない。伐採も計画を立てて着手する必要がある。いくらスギ花粉の飛散が多いからといって、乱伐することはできない。乱伐すれば、土砂崩れなどを引き起こす要因にもなる。

「大規模な土砂崩れが起きれば、スギが伐採できなくなる。それどころか家屋や人的被害も出る」(東京都産業労働局職員)

 すでに、花粉を出さない無花粉スギの開発にも成功しており、多摩山林のスギを少しずつ無花粉スギに植え替えるプロジェクトも始まっている。しかし、森林を適正に管理する人材も乏しければ、生育をつづけるスギの買い手もいない。多摩産材が大量に消費されることで植え替え速度が早まることから、東京都はもっと多摩産材を使うように呼び掛けている。

 東京都の呼びかけに対して、業者の反応は鈍い。負の連鎖が多摩山林を放置する結果を招き、それがスギ花粉の飛散量を増大させ、花粉症を重篤化させている。小池氏が掲げた「花粉症ゼロ」は、そうしたことからも決して嘲笑される政策ではない。

多摩産材の消費進まず

 ところが、いっこうに多摩産材の使用は増えず、林業再生へ道筋がつかない。今般、新国立競技場の建設計画案でも国産木材の使用が盛り込まれた。これにより、多摩産材がふんだんに利用され、多摩山林の伐採と適正管理が進むと期待された。

「新国立競技場に使われる木材は、国際認証を得ているものでなければなりませんが、多摩山林から産出する木材は認証を得ていません。仮に、今から取得しても新国立競技場に使用される可能性は低いでしょう」(前出・東京都産業労働局職員)

 小池氏は、多摩山林を活用する千載一遇のチャンスを逃した。新国立競技場に多摩産材が使われないとなると、木材需要を喚起して住宅建材などで大量に多摩産材を使ってもらうしかない。しかし、住宅建材でも多摩産材は苦戦中だ。長野県の製材メーカー社員は、こう話す。

「昭和30~40年代、東京同様に地方でも林業が盛んだった時期があります。その時期に植林された木が生育し、今ちょうど建材として売れる時期になっています。そのため、地方でも木材は余剰になっています。現在の木材需要を踏まえると、わざわざ高価な多摩産材を買う必要はないでしょう」

 長野県をはじめとする林業が盛んな地方では、余剰になった木材を住宅用建材として使用するだけではなく、公共施設などにも積極的に活用している。そうした木材利用が活性化したことから、商業施設や駅舎といった大規模な木造建築も増えつつある。また、最近では道路に付設されるガードレールにも木製のものがお目見えしている。全国に道路はあり、ガードレールの需要も多い。それらを木製化することで、国内産の木材需要を増やし、林業は活性化する。それが山林の適正管理、ひいては花粉症対策にもなる。

 小池氏が提唱していた「花粉症ゼロ」は、地方が知らず知らずのうちに率先して取り組んでいる。皮肉なことは、花粉症ゼロの旗振り役である小池氏のお膝元・東京都で木材活用が思うように進んでいないことだ。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)

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