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「相馬勝の国際情勢インテリジェンス」

北朝鮮、南北会談の隠された目的…非核化の意思なし、米国も在韓米軍撤退は拒否

文=相馬勝/ジャーナリスト

 金正恩氏は髪型や体型、あるいは帽子や背広などの服装も祖父の金日成氏に似せているとされるが、このほか物腰や所作、喋り方なども金日成氏をよく知る金永南氏からの指南を受けているというほどだ。

 金正恩氏は外交や内政についても、金永南氏から助言を受けている。とくに同氏は外交政策に熟達しており、2000年と07年の2回の南北首脳会談にも裏方として直接関係しており、今回の提案も金氏が主導したという。これについて、北京の外交筋はこう指摘する。

「金永南氏はこれ以上トランプ政権を挑発すれば、米軍の対北軍事攻撃計画が現実化することを恐れ、金正恩氏にソフト路線への変換を提案。07年に廬武鉉韓国大統領と金正日氏が南北首脳会談を行った際、廬氏の側近だった文在寅氏と接点があった金永南氏が韓国側とのパイプを利用して、金与正氏を加えた観光訪問団を組織し、南北首脳会談の呼びかけにつながった」

北朝鮮外交における影の主役

 また、金与正氏の韓国滞在中の公式行事での言動をサポートしたのが、金正恩氏の秘書室長を務めるなど金正日総書記時代から2代にわたり政権中枢を支えて最側近であるキム・チャンソン氏だ。キム氏は韓国訪問団の一員に加わり、外交経験が乏しい与正氏を全面的にサポートしていたのだ。

 与正氏は金正恩氏の特使として文在寅大統領と会談したほか、韓国政府高官と晩さん会に臨みながら発言を控え、微笑んだり冷ややかな表情を浮かべるなど好奇心を刺激し好感度アップを誘ったが、キム氏が黒子として与正氏を遠隔操作したという。

 キム氏は1941年生まれ。金日成氏とともに抗日パルチザン活動を戦った革命烈士を父親にもつ。金日成大学を卒業後、モスクワの大学に留学。朝鮮人民軍で幹部経験を積み、駐ソ連北朝鮮大使館付き武官を務めるなどエリート中のエリートで、国防委員会外事局長や党国際部長を歴任した。

 キム氏は金正日氏とは幼馴染で、遊び相手として3歳違いの弟のような存在だったことから、1993年には党書記局入りして金正日氏の秘書として仕えた。金正恩指導部でも党書記室副部長や国防委員会書記室副部長を兼務。軍の階級も中将で、いわゆる「金正恩書記室長」と呼ばれる最側近としての要職を務めた。

 職務はロイヤルファミリーの金庫番として、海外での合法・非合法を含む資金づくりを統括し、ファミリーの生活全体をサポートするほか、党と国防委員会、内閣などからの重要報告を金正恩に伝達することなどだ。この職務は現在、与正氏が担当しているが、キム氏は昨年まで与正氏の教育係として、党や軍、政府など周囲に目配りしてきた。与正氏のキム氏への信頼は極めて厚く、金正恩氏から今回の訪韓団メンバーとして与正氏のサポート役を指示されたという。

相馬勝/ジャーナリスト

相馬勝/ジャーナリスト

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。

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